教えもせずに「こんなこともできないのか!」と言っていないか

昔、日本電産には、「彼の部下になった人は必ず辞める」という上司が3人ほどいました。もし、今導入されているような360度評価をやったなら、おそらく彼らはワースト3になることでしょう。

永守重信『人生をひらく』(PHP研究所)
永守重信『人生をひらく』(PHP研究所)

でも、不思議なことに、本人はそのことにまったく気づいていませんでした。自分では上手に部下を管理していると思っているので、「なぜ、君の部下になる人はすぐに辞めるのか」と聞いても、「それは自分のせいではありません。たまたまその方の実家が何か事業をやっていて、帰りたいとか……」と弁明するわけです。

彼らはみな華々しい経歴の持ち主で、自分は頭がいいものだから、すぐに「こんなこともできないのか!」となってしまっていたのでしょう。

しかし、本来、上司というものは部下に「今日はちゃんとやり方を教えるから、いいか?」と言って、しっかりと教えなければなりません。

10回、20回、100回、そして1000回言ってもダメなら、「こんなこともできないのか!」と言っても構いませんが、1回も教えないで言うのは論外です。

要は人の使い方を知らないわけです。部下というのは、何はともあれ、包み込まなければ始まりません。包み込むというのは、甘やかすこととは違います。もし、工場の現場だったら「そこに機械があって、最初にボタンを押して、それでこうなって……。一遍やってみなさい」というように機械の使い方を教える。部下の作業を見ながら、「うんうん、そうそうそう。あー、それはこっちのことだ。もう一遍やってみなさい」と言って、それができたら次の操作を教える。

それで何回も教えて、最終的に「ダメだな。この仕事に向かないな。別の仕事をやろう」と言って、マッチングする仕事を一緒に見つける。仕事には向き不向きがありますが、必ずどこかにマッチングするものです。ですから、本人にやる気がある限りにおいては指導していかなければなりません。これが包み込むということです。

工場で働く男女
写真=iStock.com/coffeekai
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