日本の「人材投資額」は圧倒的に減少している
岸田政権が主催した新しい資本主義実現会議に提出された資料によると、日本企業における人材投資額はGDPのわずか0.1%となっており、米国の20分の1の水準でしかありません。しかも1990年代後半から日本企業は投資額を著しく減らしている状況です。
図表3はGDPに対する比率を示したものですが、日本は1990年代以降、GDPがほぼゼロ成長となっています。諸外国は同じ期間でGDPを1.5倍から2倍近くに増やしており、しかもGDPに対する人材投資の比率を変えていません。投資の絶対額という点では、日本の減少レベルは突出しています。
ITというのは従来型インフラとは異なり、新興国でも容易に社会に導入することができます。鉄道や道路、工場といった従来型インフラは、段階的に導入を進める必要があり、しかも、巨額の先行投資が求められました。
ところがITの場合、ITに対応できる人材さえ確保すれば、極めて安いコストで導入でき、従来型インフラと同等、あるいはそれ以上の効果を発揮します。経済学的に見ると、ITの普及によって多くの産業における限界コスト(一単位の生産量増加に必要なコスト)が低下しており、経済水準が低い国でも容易に成長が実現できる社会が到来しつつあるのです。
このままでは賃金が上がらず、経済全体が伸びない状況に
1990年代以降、アジアを中心に新興国がめざましい経済成長を実現していますが、それは社会のIT化と決して無関係ではありません。
かつて内戦に明け暮れたカンボジアは、今でも独裁政権が続いていますが、経済は極めて順調に拡大しており、国内では最新のITサービスが次々と立ち上がっています。一歩、外に出ると、汚い道路にトゥクトゥクと呼ばれる三輪タクシーが溢れかえっており、いわゆる発展途上国の光景そのものですが、そのトゥクトゥクはアプリを使っていつでも呼び出すことができるのです。
IT化社会においては、手順を踏んでインフラを整備してきた先進国は相対的に不利になります。ITへの投資に後ろ向きになっている日本はなおさらでしょう。日本では、社会のあちこちにITの普及を妨げる要因が存在しており、結果として国内サービス産業の生産性も向上しません。このままでは賃金が上がらず、経済全体も伸びないという状況が続くと考えられます。