「よい製品を作れば黙っていても売れる」という古い価値観

1990年代以前の日本経済は外需主導型であり、外国からの注文に対応していれば、自然と製品は売れていきました。生産が増えれば設備投資も拡大する必要に迫られますから、あまり難しいことを考えずに投資を増やすことができたのです。ところが1990年代以降、ビジネスの概念が根本的に変化したことで、企業はより戦略的にビジネスモデルを構築する必要に迫られました。

しかし日本企業は、よい製品を作っていれば黙っていても売れるという、1990年代以前の価値観から抜け出せず、IT投資についても必要に迫られなければ実施しないというスタンスだったと推察されます。結果として、多くの日本企業が前例踏襲型のIT投資に終始し、結果としてIT投資がまったく伸びないという異常事態が続いているのです。

日本企業が何も考えずに前例踏襲型でIT投資を決断していたことは、投資を行っているセクターの動きを見れば一目瞭然です。米国は1990年代以降、IT投資を積極的に行うセクターはめまぐるしく変化しています。当初は製造業によるIT投資が中心でしたが、その後、製造業の比率は低下し、サービス業の投資が増えていきました。加えてIT企業が自らITに投資するというケースが2000年以降、目に見えて増えています。

1990年代から「IT投資の業種間のシェア」が変わっていない

IT企業というのは本来、他社に対してITサービスやIT関連製品を提供する企業です。こうした企業が、自らのIT投資を強化しているという動きについては、アウトソーシングやクラウド化の進展が関係していると思われます。

これまで一般事業会社は自社でシステムを保有し、その構築や管理をIT企業に委託していました。ところが、クラウドサービスが普及するにつれて、システムの自社保有をやめ、IT事業者が持つシステムをサービスとして利用する動きが加速してきました。

一連の動きは、統計上はIT事業者の投資増加という形で表れます。サービス業によるIT投資の増加は、アマゾンやウォルマートといった小売店や外食産業が次々とIT化を進めた結果と見てよいでしょう。ところが日本における分野別のIT投資の動きを見ると、1990年代から現在に至るまで業種間のシェアにまったくと言ってよいほど変化がありません。

製造業もサービス業も同じような投資を続けているだけであり、IT企業の投資シェアが拡大していないことから、クラウド化も進んでいないことが分かります。何も考えずに前例踏襲型のIT投資を続けていることはほぼ確実であり、これでは時代の変化に対応できるわけがありません。