赤ワインと白ワインを比較した研究

食品のランダム化比較試験は少ないのですが、赤ワインと白ワインを比較した試験はあります。チェコ共和国の研究で、健康な成人157人をランダムに赤ワイン群と白ワイン群にわけ、1日200mL~300mLのワインを1年間飲んでもらい、HDLコレステロール値(いわゆる善玉コレステロール)などの動脈硬化の指標となる検査値を比較しました(※2)。対照群が白ワインなのは、アルコールではなく、白ワインには少ないけれども赤ワインには多く含まれるポリフェノールなどの物質の影響を知りたいからで、心血管疾患の発生率ではなく検査値で代理したのは疾患の発生は少なく小規模研究では差が見えにくいからです。

その結果、有意な差は観察されず、「赤ワインをたくさん飲めば心血管疾患になりにくい」という仮説に否定的でした。酒飲みとしては残念ですが、医師としては「1年間ぐらい赤ワインを飲んだところで、差が出るほどの健康へのプラス効果はなさそうだ」という新しい知見が得られたのはよかったと思います。また赤ワインの成分をサプリメントにして摂取するという臨床試験もいくつか行われていますが、これといった結果は出ていません。ほかのお酒と比べて赤ワインが体にいいとは言えないようです。

「赤ワインは体によい」という仮説もそうですが、「お酒の健康効果」に関する研究は、酒造メーカーなどがよく紹介しています。そのような研究があるのは事実ですし、企業努力の一貫として当然のことでしょう。でも消費者に届けられる情報が偏っている可能性があるため注意が必要です。

※2 Red or white wine consumption effect on atherosclerosis in healthy individuals (In Vino Veritas study)

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写真=iStock.com/LauriPatterson
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お酒を「チャンポン」で飲むとダメ?

その他にも、お酒に関するランダム化比較試験には興味深いものが多いです。ビールの後に日本酒やハイボールを飲むといった、お酒を「チャンポン」で飲むと悪酔いしやすいと言われますが、ヨーロッパにも似た格言があるそうです。意訳すると「ワインもビールもいいが、両方はダメ」という感じでしょうか。飲む順番についても「ワインの前にビールを飲むと気分がよくなるが、ビールの前にワインを飲むと悪酔いする」という格言があります。なんと、これをランダム化比較試験で検証した研究があるのです。

ドイツの研究で、健康な成人105人がグループ1、グループ2、対照群の三群にランダムに分けられ、90人が試験を完了しました(15人は脱落などで解析から除外)(※3)。グループ1はビールを先にワインを後に飲む日があり、1週間以上を空け、ワインを先にビールを後に飲む日があります。グループ2は逆にワインを先にビールを後に飲む日があり、1週間以上を空け、ビールを先にワインを後に飲む日があります。対照群は、ワインだけを飲む日、ビールだけを飲む日があります。研究日には呼気のアルコールが一定濃度に達するまで飲み、翌日に8項目の複合スコア(喉の渇き、倦怠けんたい感、頭痛、めまい、吐き気、腹痛、頻脈、食欲不振)で評価した二日酔いの重症度を比較したのです。

その結果、有意差は観察できませんでした。つまりビールを先に飲もうが、ワインを先に飲もうが、はたまたチャンポンではなく単独で飲もうが、二日酔いの重症度に大きな影響はなかったのです。当たり前のようですが、こうして検証することは大事なことです。日本でこうした研究が行われるなら、被験者として医学の進歩に貢献したく思います。

※3 Grape or grain but never the twain? A randomized controlled multiarm matched-triplet crossover trial of beer and wine