医療費が今以上にかかるようになる理由はほかにもあります。それは日本の公的医療制度の財政の問題です。

国家財政における医療費の割合は年々増加しています。厚生労働省が発表した2019年度の国民医療費は43.6兆円。そのうち6割が65歳以上の高齢者に使われています。これは国民所得の10パーセントを占める額です。

2020年度は新型コロナの感染拡大にともなう受診控えによって、近年では珍しく前年比1兆円超の減少となりましたが、国民医療費は長期的視点で見れば増加傾向にあります。

世界的にも珍しい、日本の公的医療制度

増加傾向になる要因は大きくいうと二つあります。一つめは医療の進歩によって新しい薬や医療機器、医療技術が登場し、診療報酬が増額されていること。

二つめは少子高齢化による働き手の不足です。団塊の世代が全員75歳以上を迎える2025年以降は、さらに医療費が膨らむことが懸念されます。

病気を克服するための高額医療製品が次々と登場し、それを使う人が増えている。病気の克服によって使われる期間も延びている。そうなると、医療費は高くなる一方です。

病院で担架に乗せられた高齢の女性
写真=iStock.com/101cats
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現在の公的医療制度を今と同じ内容で維持し続けることは相当に難しくなっているのは間違いありません。そうなると何が起こるか、もうおわかりかと思います。個人の医療費負担が大きくなっていくのです。

日本の公的医療制度は「国民皆保険制度」と「フリーアクセス」の2本柱で成り立っています。国民皆保険制度は、国民全員が何らかの公的医療保険に加入して保険料を支払い、安い医療費で高度な医療を受けられるようにする制度です。

1961年に導入されて以来、個人の負担割合はさまざまな変遷を経てきましたが、現在はかかった医療費の3割を負担することになっています。70歳以上の高齢者は所得額に応じて1割、2割、3割と負担割合が変わります。

フリーアクセスは、患者さんが国内の医療機関をどこでも自由に選んで受診できることを指します。私たち日本人にとってはあたりまえかもしれませんが、これは世界的に見て極めてめずらしい制度です。

長寿化で加速する負担増

日本人はクリニックでも総合病院でも大学病院でも、自分の希望する病院にかかることができます(日本でも大学病院受診に紹介状は必要ですが、ない場合も料金上乗せで受診が可能です)。米国や英国ではそうはいきません。

まず、GP(General Practitioner)と呼ばれる総合診療医を受診します。そこでより高度な医療を受ける必要があると診断されたら、紹介状を書いてもらいます。その後、ようやく高度医療を提供する医療機関にかかることができます。