「命の危機に国籍は無関係」
「これらの人々は全日空に救いを求めて並んでいる。海外の事件で日本人であることを理由に外国機に搭乗を拒否されるようなもの。生命の危機に瀕し救いを求めるのに国籍は関係ない。日本航空同様に臨時便の趣旨から邦人優先、外国人を乗せるべきではないという声が強かったが、現場で対応するスタッフの意見は行列の順番を守り、きちんとお金を支払い、全日空に救いを求めている方を差別してはならないというものだった。力強い同意を得て外国人に対しても搭乗の受付をするように指示する」。手記にこう記した。
米国の臨時便として運航したUA(ユナイテッド航空)も、空席があれば、誰であろうが乗せる対応を行っていた。
なぜ日本大使館がANAの対応を「叱責」したかというと、6月7日の搭乗手続きが終わってから、大使館の手配したバスに乗った約100人の日本人留学生が空港に到着したからだった。尾坂らが最終便の出発を説明すると、大使館員は、日本政府の退避勧告に対して「大学は安全だ」と譲らない留学生をようやく説得して集めてたどり着いたのに何事かといら立った。大使館にすれば、日本人留学生より外国人を優先するのは問題ではないかという論理であり、空港の現場にいた館員は大使館上層部に報告したのだろう。
そして大使館員は留学生に対してこう告げた。
「皆さんの乗る予定の全日空は座席を用意できない。ここで解散します」
空港難民のためにVIPルームを即金で借り上げ
空港ロビーには、搭乗できない人々で溢れており、大使館員やANA側が空港近くのホテルに空室状況を聞いたが、受け入れてくれない。このままでは難民状態だ。
「空港が戒厳軍に包囲されている」「戦車が近くまで来ている」「空港閉鎖がある」――。
様々な情報が流れており、もちろん銃声が絶えない市内に戻すこともできない。
その時、ANA北京空港所長がこう提案した。
「空港にはVIPルームがあるから借りよう」