ステークホルダー資本主義は政府の規制を封じる武器

資本主義経済の利得を民主的かつ公正に一般大衆へ還元せよという要求をかわし、政府の規制をも封じる先制攻撃の道具としてダボスマンが推奨したのが、ステークホルダー資本主義だ。

企業経営者たちを代表して賞賛に応えるポーズを取ってみせつつ、ベニオフは、政府は億万長者に課税する必要はない、なぜならば、富める者たちは善行を通じて、人々が暮らす上でのさまざまな問題を解決できるからだ、とほのめかしていた。

「CEOたちは毎週、世界の状況を改善し、このパンデミックを切り抜ける方法を見出すために集まっている」とベニオフは語った。「この1年の世界各国政府やNGOによる機能不全ぶりを見てほしい」と訴えた。「我々を救ったのは、彼らじゃない。大衆は、CEOたちこそが正しい決断を下してくれるものだと、あてにしているんだ」

ベニオフは、過去半世紀にわたって人類にいったい何が起きたのかを知るために理解しておくべき人種の、選ばれしサンプルといえる。拡大する経済格差、強まる大衆の怒り、そして民主的ガバナンスの揺らぎ──これらすべては、ダボスマンの略奪行為の結果だ。彼らは並外れた捕食者であり、その力の一部は、巧みに味方のふりをすることで得られたものだ。

過去数十年間、億万長者は納税義務を逃れて各国政府からむさぼり取り、その結果、人々は問題に対処するリソースを欠いたまま放置されてきた。公衆衛生上の緊急事態のさなか、そうした政府の弱点を理由に、ダボスマンは彼らのお情けにしか人々が頼れないという状態を正当化した。

「これだけは言わせてほしい」とベニオフは話した。「2020年のヒーローは、間違いなくCEOたちだ」

「ダボスマン」の呼称の由来

ダボスマンという造語は、2004年に政治学者のサミュエル・ハンティントンが考案した。この用語が示すのは、グローバル化によって豊かになり続け、その仕組みを熟知しているため、もはや国家に帰属しなくなった集団だ。国境を超えて流通する利益と富を手中にし、世界中で不動産やヨットなどを所有する。お抱えのロビイストと会計士たちを国内の法制度に縛られないように活動させ、特定の国家への忠誠心など持たなくなった者たちのことだ。

ハンティントンのレッテルが当初示していたのは、世界経済フォーラム年次総会に毎年出席するため、ダボスに出かける者たちのことだった。この会議で討議に加わることそのものが、現代社会における勝者としての地位の証明となってきたのだ。

しかし歳月を経て、ダボスマンという言葉は、地球をまたにかける階級の最上層、つまり億万長者たち(圧倒的に白人男性で占められる)を束ねた呼び名として、ジャーナリストや学者たちが使うようになった。

ダボスマンの影響力は政治の世界にも強く及び、彼らが推し進めてきた考え方が、先進経済諸国のほとんどで決定的な力を持つようになった。利得のほとんどを享受してきた者たちがさらに繁栄できるような形でルールを整えさえすれば、どんな人でも勝者になれる、という考え方だ。