正しさではなく、多様な視点を得る

こうやってTwitterで世の中の人たちの反応を見るとき、私はなにか「正しい反応」があるとは考えていません。

Aというイベントに対して、面白いと思うか不快に感じるのかは人によって異なるのが当然であり、そこに善悪があるわけではありませんから、自分の感じ方や考え方と比較して「正しい」「間違っている」などと判断することはありません。

このような姿勢で3万人のツイートを眺めていると、「世の中の人が全般的にどう思っているのか」「この属性の人はどう考えることが多いのか」といったことがおぼろげながらつかめてきます。

そして多様な視点を得ることができれば、例えば「他の人が不快に思うことを悪気なくうっかりやってしまう」といった生活上のリスクを減らすことができますし、自分と属性の異なる人とコミュニケーションができたり、世の中のトレンドが見えたりもするのです。

「この商品・サービスが世間で受けるか受けないか」といった予測も、当たる確率が高まります。

ユーミンが深夜のファミレスでメモしていた理由

「SNSなら自分もよくチェックしている」という方も多いと思いますが、気をつけなければならないのは、SNSの多くがその人の趣向に合わせて表示をカスタマイズしていることです。

ビジネスという面でSNSを見れば、利用者にとっていかに快適な空間を作るか、その快適な空間の中でいかに趣向に合わせた広告を表示させて、それをクリックさせるかが重要です。

そして、そのための手法はAIを駆使することによってどんどん洗練されているのです。

「エコーチェンバー」と呼ばれる現象がさらに進んだ結果、例えば「右寄り」の人が見ているFacebookの世界は右寄りの人ばかりが、「左寄り」の人が見ているFacebookの世界には左寄りの人ばかりがいるということになり、利用者はその居心地の良い空間で「自分がFacebookで見ているものが世界の実像を示している」と思い込んでしまったりするのです。

ですから私は、SNSではなるべくランダムに多様な人のものの見方や価値観に触れることを意識していますし、SNS以外にリアルな世界で人をウオッチすることも大事にしています。

思い出すのは、かつてユーミン(松任谷由実さん)が深夜のファミリーレストランでいろいろな人の会話を無作為に聞き、それをメモしていたというエピソードです。

ノートにメモを取る女性
写真=iStock.com/PATCHARIN SIMALHEK
※写真はイメージです

おそらくユーミンはそうやって耳をすますことで彼ら彼女らの感覚を学び、それを歌詞の一節やメロディに乗せていったのだと思います。

その積み重ねが、ユーミンを時代を代表するシンガーソングライターたらしめた力の源泉だったのかもしれません。