「和民の焼肉」の「史上最大の値下げ」には緻密な計算があった

最初に取り上げたいのは新規参入組の一角である「焼肉の和民」です。「焼肉の和民」は3月に「ワタミ史上最大の値下げ」と銘打って全品税込429円(税抜390円)以下という大幅な値下げを敢行しました。これまでは部位によって、和牛カルビ(70g)649円、角切りハラミ(90g)605円などと、価格が異なっていましたが、同一価格に引き下げたのです。

焼肉の和民HPよりメニュー
「焼肉の和民」は大幅な値下げで全品税込429円(税抜390円)以下にした。(画像=焼肉の和民HP)

同時に人気のワタミカルビは価格を据え置きのまま重量を75gから90gに引き上げてお得感を出しています。競争激化、仕入れ値上昇が見えている中でなぜ値下げを敢行するのか? ワタミの渡邉美樹会長兼社長の戦略は非常にユニークです。

渡邉会長によればワタミグループの中で値上げする業態もあります。それはテイクアウト業態のように「伸びている業態」。一方、焼肉業態を値下げしたのは「マーケットが小さくなる業態」。渡邉会長は、競争激化で焼肉業態は一社当たりのマーケットが小さくなってきているため、他店から顧客を奪うために値下げをしなければならない、と考えているのです。

一見無謀な戦略に見えますが、背景にはある計算があるのだと思われます。それは「焼肉の和民」への参入が鹿児島県の有力生産者であるカミチクグループと様々な面で業務提携をして仕入れルートを強固にしたうえでの参入だという事情です。

懸念点は「円安」

カミチクは第1次産業から加工、サービス業へと手を広げる6次産業の成功企業として知られています。カミチクは看板牛の黒毛和牛以外にも、豪州Wagyuを鹿児島県内の自社農場で肥育して「南国黒牛」ブランドに育てるなどビジネスの展開力で定評があります。そのカミチクとワタミでは合弁で焼肉の食べ放題業態「かみむら牧場」を11店舗運営していて、「焼肉の和民」とは違う客層で成功しつつあります。

私は「焼肉の和民」の創業時に最初に開店した大鳥居駅前店に実食に伺ったのですが、そのときの印象は「この価格にしてはまずまずおいしい」でした。一方でこの記事を書く段階で最近開店した池袋のお店に伺ったのですが、牛肉のクオリティーが開店当時よりも上がっていることに驚きました。つまりサプライチェーンの強みが発揮されてきているのです。

キャンペーンメニューもおいしいのですが、定番の看板メニューがとにかくやわらかくておいしくなっているのです。おそらく肉自体のクオリティーに加えて、独特のタレで肉をやわらかくおいしく食べさせる工夫ができているのだと思われます。

ただ懸念点はあります。ワタミによれば今回の大幅値下げは1ドル130円までの円安ならば耐えられる価格設定ということだったのですが、この夏から秋にかけ為替レートも飼料相場も、そして食肉の仕入れ値相場もその想定レベルを超えてきそうです。「焼肉の和民」の値下げ戦略の成否は、このクオリティーを維持できるかどうかにかかっているでしょう。