老後不安が増大、結果として増税正当化の材料になった

しかし、「老後2000万円問題」も、2019年10月からの消費税増税も、2019年7月の参議院選挙の大きな争点になることなく(安倍政権が巧みに争点化させなかったといえるが)、自民党は議席を減らし、選挙前の改憲勢力の3分の2の議席を確保できなかったものの、自民・公明両党の政権与党は71議席と過半数の議席を維持した。

各種の世論調査では、消費税増税に反対が過半数を占めていたのに、政権与党が過半数に達したのはなぜか。増幅する老後不安を解消するには、年金制度を立て直さなければならない、その財源確保のためには、消費税増税もやむを得ないと認識する人が増えたのかもしれない。

うがった見方をすれば、「老後2000万円問題」の発端となった金融庁の報告書自体が、消費税増税を正当化し、増税賛成に世論を誘導するために仕掛けられたものだったといえなくもない。

先の増税対策で安心したのか、それとも森友学園問題で財務省に恩を売られたためか、消費税増税の三度目の延期(もしくは凍結)はなく、ついに、安倍政権は、2019年10月から消費税率10%の引き上げを断行した。かくして、安倍政権は、二度にわたり消費税増税を断行したにもかかわらず、総辞職に追い込まれなかった初の政権となった。

アイコンのパーセント記号の上向きの上に増加する木製の立方体ブロックを置く手
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増税は最悪のタイミングだった

しかし、今回の消費税増税は、過去2回の延期時以上に、日本経済に陰りがみえはじめ、デフレ経済が続く景気後退局面で断行され、まさに最悪のタイミングの増税であった。

すでに警鐘はならされていた。経済の悪化を示す数値が相次いで発表されていたからだ。消費税率8%への増税(2014年4月)から5年半が経過しても、家計消費は回復どころか、増税前に比べて年間20万円以上も落ち込んだままで、消費の冷え込みが続いていた。増税前の2019年8月に、内閣府の発表した景気動向指数は基調判断を「悪化」に下方修正し、同じく内閣府の発表した消費者心理の明るさを示す消費者態度指数は、同年9月に12カ月連続で悪化し、過去最悪の水準に落ち込んだ。

増税後も経済の悪化は加速している。総務省が発表した2019年10月の家計調査では、二人以上世帯の消費支出は前年同月比5.5%減となった。減少は11カ月ぶりで、減少幅は2014年4月の前回増税時の4.6%減を上回った。

また、日本銀行が発表した「全国企業短期経済観測調査」(いわゆる日銀短観)でも、企業の景況感を示す業況判断指数(「良い」と答えた企業から「悪い」と答えた企業を差し引いた数値)が、大企業製造業でゼロとなり、前回調査から5ポイント低下、6年9カ月ぶりの低水準となった。さらに、内閣府の景気動向指数も、2019年10月は前月より5.6ポイント低下、これは東日本大震災のあった2011年3月やリーマンショック後の2009年1月に次ぐ下げ幅となった。