「子育て支援に」と10%に引き上げた

安倍政権は、2014年4月の消費税率8%の引き上げは三党合意どおり断行したものの、経済の悪化を理由に(実際は、2014年12月の衆議院選挙、2016年7月の参議院選挙に勝利するために)、2回にわたり10%への消費税率引き上げを延期した。

経済優先と「アベノミクス」と呼ばれる経済政策を全面に押し出し政権奪取をはかった安倍首相は、消費税増税が日本経済に壊滅的な打撃を与えることをある程度理解していたと思われる(安倍首相本人が「消費税は上げたくない」と言っていたという情報もある)。

安倍首相は、2014年11月の1回目の延期(2015年10月→2017年4月)の際に、消費税法の「景気弾力条項」を削除し、リーマンショック級の金融危機や東日本大震災並みの自然災害が起きた場合以外は再延期しないとしていた。

しかし、結局、2016年6月に、「新しい判断」と称する苦しい説明で、再延期(2017年4月→2019年10月)を余儀なくされた。さらに、2017年9月には、今度は増税延期ではなく、社会保障・税一体改革の際に定められた消費税率10%の引き上げによる増収分の使い道を変更し、幼児教育・保育の無償化など子育て支援に回し充実するとして、衆議院の解散・総選挙に打って出た。衆議院総選挙では、野党第一党であった民進党の分裂もあり、自民・公明与党が勝利した。

安倍政権の選挙公約であった消費税の使い道の変更と幼児教育・保育の無償化などは、同年12月に、閣議決定された「人づくり革命」において具体化された。すなわち、8%から10%への引き上げで、5兆円強の税収増になるが、そのうち軽減税率の導入に伴う減収が1兆円程度となるので、国債の発行抑制などの部分であった1兆7000億円程度を「人づくり革命」と称して、幼児教育・保育の無償化と高等教育の無償化、保育士・介護職員の処遇改善などの施策に用いるというものだ。

消費税率10%引き上げによる社会保障の充実・安定化のイメージ図

年金政策を放置してきた安倍政権への怒りが噴出

安倍政権は、消費税率10%への引き上げに、よほど自信がなかったのだろう、2018年末には、増税による経済への影響を緩和するため、「消費税の増税分をすべて国民に還元する」として、総額6兆円にも及ぶ対策を打ち出した。

そもそも、丸ごと還元しなければならない増税分ならば、はじめから増税などしなければいいのだが。

参議院選挙前の2019年6月には、金融庁の金融審議会・市場ワーキンググループが、年金給付の減少で老後30年間に夫婦で2000万円の蓄えが必要などとする報告書を公表し、大きな波紋が広がった。

政府が、公の文書で、公的年金制度は頼りにならず、望むような生活ができなくなるから資産を運用しろと、国民にあからさまに自助、生活の自己責任を求める内容であり、年金を減額し続け、無年金・低年金受給者の問題を放置してきた安倍政権の年金政策への不信と批判が一挙に噴出したといえる。