天才経営者というより天才発明家

6月頭には、世界中で新規採用は中止し、約10万人いる従業員の10%を削減すると言ったかと思うと、すぐに「やっぱり従業員を増やす」と発信した。ツイッター社の買収にしても、創業者のジャック・ドーシー氏と話し合って買うと決めたり、気に入らないことがあると「やっぱり買わない」と言ったりする。テスラに勤めていたら、マスク氏の発言を無視しなければ仕事にならないだろう。

マスク氏は天才経営者というより天才発明家だ。電気自動車に加え、スペースXで宇宙ロケットを開発し、時速1000キロ以上で移動するハイパーループ構想を描ける。130年以上前にトーマス・エジソンがゼネラル・エレクトリック(GE)社を創業したようなものだ。

エジソンも経営者というより、やはり発明家だ。GEが立派な大企業になったのは、設立時のチャールズ・コフィンの存在と、その後社内にラルフ・コーディナー、ジャック・ウェルチのようなプロ経営者が育ったからだ。

イーロン・マスク氏になると、後継者育成はおろか、彼自身が最後まで経営をまっとうできるかもクエスチョンマークがつく。従業員が安心して働き、社業を発展させるのが困難だからだ。世界中に従業員がいるグローバル経営ではなおさらだろう。

わが身を振り返れば、ビジネス・ブレークスルー(BBT)は、現社長の柴田いわおが今では日本トップクラスのバイリンガル・スクール事業を強力に進めるなど多くの分野で頑張っている。彼は人の話をよく聞くし、なるべくコンセンサス(合意)で物事を前に進めようとする。時々私が何か言うときに、むしろ重荷を感じるくらいだ。さらに、副社長の政元竜彦はCCO(チーフ・コンテンツ・オフィサー)で、あらゆる経営者に目を光らせていて、面白い人がいるとすぐにコンテンツ化してくれる。

私には息子が2人いるが、それぞれ事業を興しているから世襲はない。それに、授業コンテンツを約2万時間分蓄積してきた。『学問のすゝめ』や『西洋事情』を著した福沢諭吉が創設した慶應義塾は160年以上続いているわけだが、私は『企業参謀』以来500点以上の内外での出版もある。IRや株主総会で「大前がトラックにひかれたらどうなるのか?」というような質問を受けることもあるが、私の考えは克明に記録に残されているし、人材も育っている。BBTは心配には及ばない。

(構成=伊田欣司 写真=東洋経済/アフロ)
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