高血圧のリスクを高めてしまう

ここからは、SASと病気のリスクについてご説明します。以前より、生活習慣病の患者はSASを併発していることが多いのは知られていましたが、近年の研究で、SASをはじめとした睡眠障害が生活習慣病と相関関係にあることがわかってきました。

まず、SASが高血圧のリスクを高めることについて。ある研究では、中等症以上のSAS患者は一般の方よりも高血圧のリスクが2.89倍高いことを示しています(※2)

(※2)Peppard, T Young, M Palta, J Skatrud Prospective study of the association between sleep-disordered breathing and hypertension. The New England Journal of Medicine. 2000 May 11;342(19):1378-84.

高血圧は生活習慣病の代表的なリスク要因で、心疾患や脳血管疾患など、日本人の死因の上位となる疾患とも深く関わっています。健康な方の血圧は、日中高く、夜間の睡眠中は低いのが一般的ですが、SAS患者は、日中の覚醒時のみならず睡眠中にも血圧が高い傾向があります。

無呼吸を伴う場合、睡眠中の血圧は、無呼吸から呼吸が再開するタイミングで急上昇し、再度低下することが確認されています。SAS患者は、本来血圧が最も低くなるはずの睡眠中に、血圧の激しい変動を短いスパンで何度も繰り返すため、高血圧が維持されてしまうのです。高血圧で、降圧剤を服用しても血圧が思ったように下がらない場合や、寝起きの血圧が高い場合には、SASを併発している可能性が考えられます。

脳卒中の発症リスクは2.89倍

諸疾患との関係について、SASがリスク要因であることを示すデータをご紹介します。重症のSAS症例1708件を分析したところ、高血圧(50.4%)、脂質異常症(61.1%)、糖尿病(18.9%)、メタボリックシンドローム(34.6%)と、高い割合で循環器系疾患を合併していることがわかりました。また心血管疾患を見ても、冠動脈疾患(14.4%)、脳血管疾患(9.4%)、大動脈疾患(2.4%)、末梢動脈疾患(2.2%)という合併率を示しており、これら疾患の発症にSASが深く関わっていることが示唆されています。(椎名一紀「閉塞性睡眠時無呼吸症候群と心血管障害」 日本心臓病学会誌 Vol. 7 No. 1 2012)その他、SASがある人はSASがない人に比べ、脳卒中の発症リスクは2.89倍、夜間心臓突然死は2.57倍に跳ね上がることが報告されています(※3)(※4)

(※3)Fredrik Valham, Thomas Mooe, Terje Rabben, Hans Stenlund, Urban Wiklund, Karl A Franklin Increased risk of stroke in patients with coronary artery disease and sleep apnea: a 10-year follow-up Circulation 2008 Aug 26;118(9):955-60
(※4)Apoor S Gami 1, Daniel E Howard, Eric J Olson, Virend K Somers Day-night pattern of sudden death in obstructive sleep apnea The New England Journal of Medicine. 2005 Mar 24;352(12):1206-14.

こうした循環器系の疾患や心血管疾患と、睡眠時に呼吸が停止することとは、一見関係がないように思えますが、SASはさまざまな疾患を合併したり、原因となったりすることが明らかにされつつあるのです。SASの疑いがありながらも、「いびきの他に特段症状がないから」といって放置されている方がいらっしゃれば、医療機関に相談することをおすすめします。