「うるさい」だけでは済まされない“いびき”
今年は梅雨時から暑く、寝苦しい日々が続いているという方も多いのではないでしょうか。夏は暑さにより寝つきが悪いことやしっかりと眠れないことで睡眠不足になり、日中に眠気を感じるといったお悩みが増えます。
睡眠に問題が生じる原因は暑さ以外にもさまざまありますが、自覚がしにくいものでは“いびき”が挙げられます。日本人は骨格の特徴からいびきをかきやすいとも言われており、ある調査では自身のいびきに悩みを持つ人の割合は4割を超えました。(フランスベッド株式会社「2022年 いびきに関する実態調査」2022年)
一方でいびきは生理現象であることから、単に騒音の問題として捉えられ軽視されがちという側面もあります。自覚しにくいことと相まって、結果的に放置されてしまうケースも多くなります。ですが、近年の研究ではいびきが睡眠不足の原因となることに加え、生活習慣病などの疾患とも深く関係していることがわかってきています。今回はいびきが代表的な症状である「睡眠時無呼吸症候群」を取り上げたいと思います。
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome [SAS])は、寝ている間に呼吸が止まる病気です。事故を起こしたドライバーにSASの症状があった等、たびたび報道されたこともあり、その名前は広く知られるようになりました。
睡眠中に呼吸が止まっている
病気の定義としては、10秒以上の呼吸停止を無呼吸とし、無呼吸が一晩に30回以上、または1時間あたりで5回以上あれば睡眠時無呼吸とされます。
前述のとおり、睡眠中にいびきを伴うことがほとんどです。いびきがしばらく止まり、大きな音とともに再度いびきをかき始める症状に家族などが気づくケースが多いです。そのほかには睡眠中にむせたり、何度も目が覚めたりすることもあります。睡眠中の無呼吸の影響で、起きている間には慢性的な眠気や倦怠感が生じますし、集中力が続かなったり、抑うつ状態に陥ってしまったりして、日常生活や仕事に影響が出る場合もあります。
運転中の眠気の経験割合を調査したところ、SAS患者の場合はそうでない方と比較して約4倍、居眠り運転の経験割合では約5倍との結果が出ています。(井上雄一「居眠り運転と睡眠時無呼吸症候群」臨床精神医学 27 137-147,1998年)交通事故発生率については、SAS患者は一般ドライバーよりも2.5倍交通事故を起こす確率が高いという報告があります(※1)。
(※1)FINDLEY LJ et al: Automobile accidents involving patients with obstructive sleep apnea. American Review of Respiratory Disease 138 337-340, 1988
運転を例に挙げましたが、運転しない方にもリスクはあります。睡眠不足は注意力や判断力を低下させ、パフォーマンスを落とします。それによりヒューマンエラーの危険を高めることがわかっています。車の運転に限らず、思わぬ事故や重大なミスを犯したり機械操作を誤ったりして、労災や社会的影響の大きな事故につながる可能性が高まることも併せてお伝えしておきます。