財務省などは「日本の財政は危機にある」として、財政再建の必要性を呼びかけている。それは本当なのか。明治大学の飯田泰之教授は「財務省は『税収と歳出の差が年々拡大し、ワニの口が開いている』と主張しているが、私も参加した経団連のシンクタンクの報告書ではこれを真っ向から否定している。コスト削減を優先する経済政策はもう見直すべきだ」という――。
経営者感覚で「クローズドシステム」は語れない
日本に限らず、経営者や経営者団体は、財政政策・金融政策といったマクロ経済政策に冷淡であることが多い。
これは経営とマクロ経済の違い、すなわち、「オープンシステム」と「クローズドシステム」の差に由来する。
例えば、個別企業の経営にあたっては能力に劣る労働者を整理し、無駄な支出を切り詰めるのは、個別企業の利益増進のために有益なこともあるだろう。
このように、問題をシステムの「外部」に出すことができる状況を、「オープンシステム」という。個別企業は典型的なオープンシステムだ。
一方、「日本経済」は個別企業より、はるかに閉鎖的なシステムである。つまり、典型的な「クローズドシステム」といえる。
能力の劣る社員をリストラしたとしても、彼が日本国民でなくなるわけではない。
経費を削減すれば、その分の資材を販売する取引先の売り上げを低下させてしまう。
経営者とは、オープンシステム(である企業)の運営に手腕を発揮してきた人たちだ。いわば、オープンシステムの世界におけるエリートである。
しかし、時として、「オープンシステムの論理」と、「クローズドシステムの論理」は、互いに相反することもある。
例えば、「お金は使ったらなくなる」というのは、オープンシステムでは自明の理である。
何かを買ったら、その代金分、あなた(というオープンシステム)の資産は減少する。
しかし、日本経済というクローズドシステムにおいては、「お金を使っても、なくならない」。取引を通じてお金の「所有者」が変わるだけだ。
日本経済の問題を考えるときは、経営者に限らず、私たちが日常慣れ親しんでいる、「オープンシステムの思考法」から離れる必要がある。