「妻や子が弟の経済的サポートをしなければならなくなることが心配」
ひきこもりの子供を抱えた親にとっては、「収入が得られない」ことが何より心配の種です。その点、しっかりと自立している子のことは、安心感からか、ついついなおざりに考えてしまうことがあります。
気持ちは理解できます。しかし、親亡き後のひきこもりの子の生活ではいろいろな面で兄弟姉妹のサポートが必要です。遺言書でかなり偏った遺産分割の指定がされると、相続割合が少ない側は、事情がわかっていても、内心面白くありません。その後に兄弟姉妹の協力が得られなければ、結局はひきこもりの子、本人の生活の質が低下することも考えられます。そのため、兄弟姉妹の遺産分割はできるだけ公平に考えるように、私はお勧めしています。
「そうですね」
母親はため息をつきました。
2週間後の2回目の面談で、母親は言いました。
「前回の結果を長男に話したんです」
すると長男は、このようなことを言ったそうです。自分は母親の遺産はまったくあてにしていない。それよりも将来、自分の妻や子が弟の経済的なサポートをしなければならなくなることが心配だ。自分は遺産をもらうつもりはないというのです。
兄弟の良好な関係が維持されるような配慮が必須
そこで私は、母親の財産をすべて次男が相続する前提でシミュレーションを作成しました。
それであればなんとか次男の生活は成り立ちそうです。多少の余裕もありますので、医療や介護などで資金が必要になった場合も対応できるでしょう。
「お兄さんがそのようなご意向でしたら、安心ですね。弟さんが老後に介護が必要になった場合、手配などのサポートは必要でしょうが、資金援助まではしなくて済むでしょう」
作り直したシミュレーションを見て、母親はほっとしたようです。
「長男も安心してくれると思います」
遺言書を作成して、母親が遺産分割の方法を指定しておくこともできます。しかし、長男には一定割合を請求する権利がありますので、遺言のとおりに分割されるとは限りません。それであれば、長男が今の考えを実行してくれるのに任せたほうがよさそうです。
「お兄さんのご協力あってのプランです。お母様としては、これからもご兄弟の良好な関係が維持されるようにご配慮していただければと思います」
私は、兄弟の遺産配分はできるだけ公平に考えるべきと思っていましたが、お兄様の方からそれを覆す考えを示してくれました。兄弟姉妹の方がいつもこのように協力してくれるわけではありませんが、今回の場合は兄弟仲が良かったためにご長男が譲歩をしてくれたのだと思います。私もいろいろと教えられたケースでした。