2021年にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2021年5月22日)
薬物依存患者の半数は、違法薬物ではなく処方薬の依存症を抱えている。精神科医の松本俊彦氏は「ベンゾジアゼピン受容体作動薬などの処方薬の依存症は治療がむずかしい。精神科医の気軽な処方が患者を増やしている」という――。(第2回/全2回)
※本稿は、松本俊彦『誰がために医師はいる――クスリとヒトの現代論』(みすず書房)の一部を再編集したものです。
精神科医がやってしまいがちな「ドリフ外来」
以前、尊敬するベテラン心理士からこういわれた。
「精神科医は薬を出すから、いつまで経っても心理療法がうまくならないのよ」
彼女はいつも精神科医に手厳しいが、このコメントもその例に漏れなかった。私は、「ですよねえ……」と曖昧に濁すほかなかった。
たしかにその通りだったからだ。「では、お薬を調整しておきますね」「お薬を追加しておきましょう」――こういった言葉で、出口の見えない診察室でのやりとりを強制終了する。問題は何も解決していない。
医師として前向きな姿勢を失っていないことを患者に示しつつ、ただ時間稼ぎをしているだけだ。そんなやりとりをこれまで何百回、いや何千回も行ってきたことか。
かつて私は、わが国の精神科医療をこう評したことがある。曰く、「ドリフ外来」。つまり、「夜眠れてるか? 飯食べてるか? 歯磨いたか? じゃ、また来週……」といったやりとりで、次々に患者を診察室に呼び込み、追っ払う。そのありさまを、ドリフターズの『8時だョ! 全員集合』のエンディングのかけ声になぞらえたつもりだった。
これは批判であると同時に自虐でもあった。弁解を許してもらえば、何もすべての患者にそうしているわけではないのだ。
日に50人診察するとして、そのうちの何割を「ドリフ外来」的にサクッと捌けるかで、その日の診療で重症者にどれだけ時間とエネルギーを割けるかが決まってくる。だから、患者によって緩急つけながら自分の外来診療を進めていくのは、業務マネジメント上、やむを得ないことなのだ。
とはいえ、これは容易ではない。