石炭増産を指示するも、すでに冷房需要が急増
しかし、供給制約による資材の不足や洪水による炭鉱の被災など複合的な要因が重なり、中国国内での石炭増産はスムーズに進まず石炭火力発電が逼迫し始めた。その結果として昨年9月ごろから中国では電力不足が発生し、製造時に電力を大量に使うアルミニウムなど非鉄金属の減産や生産停止が相次ぎ、国際市況も押し上げられた。
その後も中国は石炭生産を増やした。2月24日にロシアがウクライナに侵攻し、欧米各国が対ロ制裁を強化した後、中国は割安なロシア産の石油や石炭を購入してエネルギー需要を満たそうとした。中国同様に、インドもロシアから石油や石炭を輸入している。
4月に開催された国務院の常務会議でも石炭の増産が指示された。共産党政権はエネルギー供給の危機感を一段と強めている。それでも気温の上昇によって冷房需要が急増し、一部地域で電力の需給が急速にタイト化した。習政権にとって必要な量の石炭を確保し国内の膨大な電力需要を満たすことは容易ではない。
中国経済を読み解くのに「銅の先物価格」がなぜ大事か
電力供給不安の高まりによって、今後の中国経済の成長率の低下懸念は追加的に高まる。同じことは火力発電の割合が高いわが国にも当てはまる。目下、共産党政権はゼロコロナ政策によって傷ついた経済を下支えするために公共事業の積み増しや消費の喚起策を急がなければならない。電力供給不安の高まりはそれに水を差す。
例えば、中国第3位の人口規模を誇る河南省では当局が節電を呼びかけはじめた。節電は飲食や宿泊などゼロコロナ政策に直撃された企業の事業運営に逆風だ。非鉄金属や電子部品、デジタル家電などの生産回復にも時間がかかるだろう。それによって公共事業の実施も遅れるだろう。
その懸念から、6月に入ってロンドン金属取引所(LME)などで取引されている銅の先物価格は下落した。リーマンショック後、共産党政権は高速鉄道の延伸などインフラ投資の積み増しをメインに景気の持ち直しを目指した。電線などに使用される銅の需要は押し上げられた。そのため、銅の先物価格は中国経済の先行きを示唆する指標として注目度が高い。銅先物価格の下落は、電力供給不安などによって中国経済の減速がより鮮明化するという不安上昇の裏返しだ。