どちらを選ぶかで、未来は180度変わる

メタバース経済の未来とモビリティ経済の未来は一見、論理的にはその両方が狙えそうですが、現実の経済ではどちらかが選択される二者択一の側面が強いという話をしたいと思います。

そして、どちらを選ぶかで未来が大きく変わります。

そもそもの前提として今、大半の国民はスマホが触りたくて仕方ありません。なぜ自動車が売れないのか。その理由は時間があれば自動車よりもスマホを触りたいから。スマホとクルマは競合商品なのです。

モビリティ経済には現実のリソースの制約も問題になります。

物流が増えれば経済が発展するのですが、その物流は人員の観点から成長のボトルネックになっています。運送会社はどこも人手が足らず、宅配クライシスを回避するためには物が動かない未来を作りたいという圧力が存在します。

さらに国際的な政治環境もスマホ有利に働いています。

2020年代に入ってからの状況を振り返れば、コロナ禍で「不要不急の外出は控えるように」と言われ、ロシアのウクライナ侵攻による原油高では「なるべく電気を使わないように節約しよう」と政治家が呼びかけているのが実情です。

ひょっとするとこれから先についても「ゼロカーボンの目標を達成するには、このままの状況がずっと続いたほうが都合がいいんじゃないか」みたいなことを永田町と霞が関で偉い人たちが話し合っているかもしれません。

つまりこのままいけば、未来はメタバースに向かう可能性のほうが高いのです。

「2つに1つ」大事なのはときめくかどうか

モビリティ経済を発展させるためにはエネルギーの問題を解決し、自動車をスマホよりも魅力的なコネクテッドガジェットに進化させる必要がある。そのための戦略投資が不十分ならばモビリティ経済は立ち上がりません。発展には選択と集中が重要です。

鈴木貴博『日本経済 復活の書』(PHPビジネス新書)
鈴木貴博『日本経済 復活の書』(PHPビジネス新書)

さて、これは戦略策定の専門家としての私の意見ですが、二つの戦略があってそれぞれがありうる戦略だった場合、選択と集中の判断基準として二つの案のうち「ときめくほう」を選ぶことをお勧めします。

こんまりさんの影響で「ときめくかどうか」は物を捨てるときの判断基準だと私たちは思いがちなのですが、実は未来を選ぶときの基準としてもときめくかどうかは重要です。

エネルギーの節約を気候変動対策の大前提だと考えたら、未来はメタバース経済選択の一択になってしまいます。スマホにときめく人はそれでもいいかもしれませんが、個人的に私は反対です。

私には、モビリティ経済のほうがだんぜんときめきます。いつも誰かに会いにいきたいし、どこかに出かけて買い物したいし、週末は3泊ぐらい旅をしたいのです。日本の未来は制約条件で選ぶのではなく、ときめくかどうかで選んだほうがずっといいのです。

【関連記事】
【第1回】なぜ北京―上海間の中国新幹線は1万円以下なのか…日本のリニア新幹線を大成功させるための究極アイデア
見た目は同じでも中身がスカスカに…日本企業が「ステルス値上げ」を繰り返す日本ならではの理由
世界中を悩ませる「LNGの脱ロシア化」で、欧州には不可能かつ日本にしかできない最善のエネルギー源
「日本はご飯が美味しくていい国だけど…」旅行先を日本→東南アジアに切り替えた英国人のホンネ
天才経営者・孫正義も想定外だった…ソフトバンクを1.7兆円の大赤字に沈めた「世界経済の2大変化」