「日陰が多い家にも義務化」という勘違い
疑問6:家は好き勝手に建てるのが一番! なんでオレが東京都に太陽光設置を押し付けられるんだ?
これまでも、太陽光発電はFIT制度や補助金などの誘導策により、普及が後押しされてきました。しかし、それだけでは遅々として進まないため、普及策の一環として、世界でも実施例が増えている設置義務化を、日本では東京都が最初に導入しようとしています。
非常によく誤解されますが、東京都の設置義務化は、家を建てる個人に設置義務を課すものではありません。あくまで大手のハウスメーカーに、販売する住宅全体で一定量の太陽光設置を義務付けるものです。日陰になるなど条件が悪い家に無理に設置する必要はなく、条件がよいところだけ設置すれば十分です。
東京都は従来から太陽エネルギーに熱心で、「東京ソーラーマップ台帳」を作って家の日当たりを分析してきました。今回の制度も、こうした地道な努力が反映されています。批判する前に、まず現状案や周辺資料をよく読むことをおすすめします。
義務化の対象となる大手ハウスメーカーの多くは「ネツレツ反対」というところが多いようですが、まあ建築業者というのは、面倒なことが増えることには条件反射的に猛反発するのがお約束。お施主さんにとって、家は一生に一度の買い物であり、そこで一生をすごす大事な器です。ただ建設業者がやりやすければそれでよしという新自由的な発想では、心もとないのは当然です。大事なことは、お施主さんが住んだ後の安心が確保されることですからね。
東京都義務化で巻き起こった反対意見の多くは、太陽光全般を潰すこと自体が目的の「ヘイト系」ですが、制度の理解不足に基づく「誤解系」も少なからずあります。そして東京都の説明が、こうした誤解を招きやすい、説明が丁寧でない面が多分にあることは筆者も否定できません。政策提案側はもっと心を砕いて、「みんなにとって良いことを分かりやすく伝える」努力を重ねなければなりません。
義務化されれば競争が働いてコスパも機能も良いものが生まれる
載せなければならないとひとたび義務化が決まってしまえば、それをどうやって安くキレイに載せるかの競争は、日本企業が大得意。設置義務化が決まれば、彼らは工夫を重ねてコスパ抜群、雨漏りなんて絶対おきない見事な屋根載せを実現してくれるでしょう。義務化の恩恵は、住む人みんなに広く届くのです。
ちなみに、「太陽光を載せると雨が漏る」という動画も拡散されていますが、保証関係の人に聞くと、太陽光が原因の雨漏りはほとんどなく、天窓の方がよっぽど問題だそうです(笑)。
2020年の時点ですでに、ハウスメーカーの建てる家の56.9%は、ゼロエネルギー住宅(ZEH)になっています。今でもハウスメーカーの建てる家の半分以上はすでに太陽光が載っているのですから、そもそも大したハードルではありません。
そもそも、国土交通省は2030年目標として「新築戸建住宅の6割に太陽光設置」を明言しています(注4)。エネルギー基本計画にも取り入れられ、閣議決定もされています。戸建住宅を供給する業者は早晩、大概の家に太陽光を載せなければならないのですから、まずは東京都で補助金をもらいながら、トレーニングを始める方がよっぽど建設的です。
注4:「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方の概要」
えっ、「あの」国土交通省はそんな太陽光6割の目標なんて忘れてるって? あの省は「私たちの“暮らしに欠かせないもの”を“より良く”していく」のがお仕事なんだそうです(注5)。国民の暮らしを良くすることがお仕事の立派な省庁が、電気代も安心な家造りの基本を忘れるなんて、ありえないじゃないですか(笑)。
注5:「国土交通省の業務」