「育てなくていい」追い詰められた私を救った夫の一言

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、周囲の人は私のことを慰め、励ましてくれます。それが私には、がんばれ、もっとがんばれと言われているように思えて苦しくなりました。

どんな言葉をもらっても責められていると錯覚をしてしまう私は、どんどん後ろ向きになり、気がつけば絶望のどん底にいました。

一生話すことも、歩くこともできない、もしかしたら寝たきりになるかもしれない良太をずっと介護している私――この先の未来に生きる希望なんて何一つもつことなどできませんでした。

障害のある我が子を、これからどうやって育てたらいいのだろう。

私には無理かもしれない。

なんで普通に産んであげられなかったんだろう。

不安、申し訳なさ、恐怖、悲しみ、いろいろな感情が溢れ出し、とうとう夫に情けない私の全ての思いを吐き出しました。そして最後には「良太と2人で消えてしまいたい」と泣きながら訴えました。

するとそれまで何も言わなかった夫がこう言いました。

「そんなに辛いなら育てなくていい。施設に預けることもできる。絶対にママが育てないといけないなんて考えなくていいから」

想像もしていなかった夫の言葉でした。

ずっと前に「障害があること」を受け入れていた

「僕はママが一番大事やから。ママが死にたいほど辛いことはしなくていい」

最初は唖然としましたが、夫の一言が私の気持ちをフッと軽くしてくれました。

良太を産んで、私はショックでした。どうして障害のない体で産んであげられなかったのだろうと自分を責めていました。将来、学校でいじめられたらどうしよう。私や夫が死んで一人ぼっちになったらどうしよう。未来のことを考えれば考えるほど、不安で眠れません。

一方、夫は私よりずっと早く、良太の障害を受け入れていました。

診断を聞くとすぐに、ダウン症についての本を取り寄せたり、療育といって、障害のある子どもの支援をしてくれる場所を探して予約をとろうとしてくれたり。

でも、私はそれすらも聞きたくなかったし、見たくなかった。向き合いたくなかったんです。なにか奇跡が起きて、良太は治るんじゃないかとすら願っていました。

もちろん、その時の私にはとてもできないことを、夫が先回りしてやってくれたことには感謝をしていました。でも一方で、私の気持ちが置いていかれるようで、辛かったのです。その辛さが爆発して、育てる自信がない、と夫に言ってしまいました。

夫は、良太を育てろ、と私に押し付けていたわけではないのです。私がショックで動けないのを知っていたから、現状が今より悪くならないように、今できることを淡々とやってくれていました。