遺体が語る「85歳を過ぎるとがんがない人はいない」実態

老いと闘うか、受け入れるか。私自身は、残念ながら、人間は最終的に老いを受け入れざるをえないと考えています。

そのベースにあるのは、高齢者医療の現場での経験です。私が勤めていた浴風会病院は、もともとは関東大震災で身寄りを失った高齢者の救護施設として、皇室の御下賜金などをもとに設立されました。その後、老年医学の研究のため、当時の東京帝国大学医学部からこの施設に医師が派遣され、入所者の診療を行うとともに、亡くなった人の解剖を行い、高齢者の脳や臓器について研究が進められました。

いまでもその伝統が残っており、私が勤務していた当時は、年間100例ほどの解剖が行われていました。

私はその解剖結果をずっと見てきました。その結果、わかったのは、85歳を過ぎると、脳にアルツハイマー型の神経の変性がない人、体内にがんがない人、動脈硬化が生じていない人は一人もいないということです。

いずれにせよ人間はいつか必ずボケるし歩けなくなる

つまり、どれほど認知症にならないようにがんばったところで、あるいは生活習慣病を予防するために食生活や運動に気をつけたところで、ある程度の高齢になれば誰もが認知症になるし、生活習慣病にもなるのです。

かつては成人病と呼ばれていた脳卒中や心臓病などを、「生活習慣病」と改称することを提唱したのは、100歳を過ぎても現役医師として活躍していた日野原重明先生(享年105)ですが、その日野原先生でさえ、晩年は脳内に変化が起こっていたと考えられます。

同じくらい脳が縮んでいても、すっかりボケたようになってしまう人と、驚くほど頭がしっかりしている人がおり、症状の表れ方には個人差があります。認知症になったとしても頭を使いつづけて、なるべくしっかりした状態を保つようにしてほしいと思います。

いずれにせよ、人間はいつかボケます。いつかは歩けなくなります。それを覚悟しておく必要があります。