エディーさんはリーダーのビジョンによって、メンバーの心理的安全弁を開放することは可能だという。

「大胆に仕事をしてもらうためにはどうすべきか。リーダーはミスが起きる構造を理解し、それを許容するのです。ミスが起きやすいのは、チャレンジをしたときです。自分の限界を超えようとして失敗してしまう。けれど、失敗することは勝利に到達するためのプロセスのなかで、すごく重要なんです。だからこそ、チャレンジを尊重し、そうした意欲をサポートする体制、プランを考えるべきです」

リーダーはサポート体制を整える必要があり、その方法を確立することがリーダー自身だけでなく、組織のメンバーの成長につながるとエディーさんは言う。

リーダーは自分にも弱点があることを認識する必要があります

リーダー自身が失敗を恐れないこと

「進むべき方向を示したら、メンバーを引っ張っていく場面は必ず訪れるでしょう。しかし、集団の後ろに回り、メンバーの誰かに『さあ、あなたがリーダーシップを取る順番です』と促すことも必要です。これを忘れがちな人は多いです。大切なのは、時と場合によってどちらのほうがいいのか、適切に判断すること。そして、リーダー自身が失敗を恐れないことです。時機の判断を間違っていたとしても、そこから学びを得られるはずです」

選手のさらなる意欲を引き出すことに重きを置くマネジメント方法は、人材に恵まれない組織、プロジェクトでも応用が利く。

「現状を嘆くことは簡単ですが、何ができるかを考えましょう。メンバーが勇気をもって仕事に取り組める環境をつくること、それが第一歩です。そして次にメンバーが自分たちで決断できるように権限を委譲していく。人間は、決定権限が保証されていると、さらに意欲が湧いてくるということが研究でも証明されているんです」

メンバーの積極的な姿勢を促すために、リーダーが用意できることは多々あるとエディーさんは言う。

「ふたつの方法があります。まずは、こういう姿勢で仕事に挑んでほしいとダイレクトに伝えること。そしてもうひとつは婉曲に、あえてオプションを与えて『最善の方法はなんだろう?』と考えてもらう方法も大切です」

そしてエディーさんは、世界のトップクラスのコーチたちが、いかに人間関係構築のための「技術」を学んでいるか、実例を挙げて紹介してくれた。

「サッカーのアヤックス、バルセロナ、バイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・ユナイテッドといった名門クラブで監督を務めてきた名将、ルイ・ファン・ハールと食事をしたことがありました。世界の一流指導者と会って話をするのは私の仕事の一部ですからね。ファン・ハールはオランダ人なのでラグビーの知識は皆無に近く、私のことは知りませんでした。

アムステルダムの空港でランチをしたのですが、初対面だったにもかかわらず、私の胸を触ってくるんですよ。腕じゃなくて、胸。なんだか居心地悪くて(笑)。そして、なぜそうしていたかを聞いてみたんです。そうしたら『人間関係をより円滑にするために触れていたんですよ』という答えが返ってきて、なるほどと思いました。コーチングの基本は、よりよい人間関係を構築することであり、それには様々なアプローチがあるのだと確認できた思いがしました」

(撮影=小田駿一 写真=getty images)
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