ミドルに必要なのは「会社愛」でも「出世欲」でもない
さて、本書において、校内マラソン大会のような出世競争から「降りる人」や「限界を感じる人」が多くなるのは、平均で42歳ごろだというデータを紹介しました。
校内マラソンにたとえているのは、同年代の「同期」を準拠集団としつつ、職種や配属にかかわらず「みな」が同じスタートでヨーイドンの出世競争を始めるからです。
最初のころは「みな」が競争しているので、その中でリードしていること(勝つ見込みがあること)が動機づけやパフォーマンスを向上させますが、40歳をすぎるころには、まだ出世の見込みが残っている、先頭集団だけの競争になります。
どんな企業でも、上位のポストになればなるほど仕事の複雑性が増してポストも限られてくるので当然です。
しかし、先述したとおり、35歳神話が根強く残っているので、そのころにはすでに転職市場では価値がガクンと下がってしまっています。
不満だけを溜めて外にでない中高年層が大量に発生するのは、この長すぎる出世競争が終わるころにはすでに「簡単には外にでられない」状態になってしまっているためです。
しかもその動機づけ競争を主導しているのは企業側です。その状態の中高年にいきなり「外にでることも考えて」と告げるだけでは済まされないでしょう。
もちろん、出世は諦めたけれど、今の会社を気に入っていてまだまだ前向きに頑張りたい、という人もいます。次に、こうした企業への愛着や思いについて見てみましょう。
調査によって得られたデータを年代別に分析すると、所属している会社への愛着や一体感を示す「組織へのコミットメント」は、歳をとるごとにその人のパフォーマンスにつながらなくなる傾向が見られました。
残念なことに、「会社への愛」は「会社への貢献」には徐々につながらなくなっていくようなのです。
変わる力は将来への備え
出世への意欲は限界を迎え、会社愛を持っていてもそれほど活躍につながらないとすると、中高年からのキャリアに必要なものは一体何なのでしょうか。
それは、変化に合わせて自分を変えられる力、筆者が〈変化適応力〉と呼んでいる力です。〈変化適応力〉とは、組織、企業、事業環境、技術などの変化に対してうまく適応していく力であり、将来への構えのことです。
未来に起こる思わぬ変化を、うまく乗り越えていく準備ができていることを指します。この変化適応力が高い人こそ、中高年になるほどパフォーマンスを出していることが分析の結果でわかっています。
詳しい分析を紹介する前に、〈変化適応力〉の現代的意義についてもう少し述べておくことにしましょう。
近年、こうした〈変化適応力〉が仕事での活躍を左右した典型的なシーンと言えば、何よりも2020年から今なお続くコロナ禍における働き方の急激かつ予想しなかった変化でしょう。
2020年3月、緊急事態宣言の発令によって多くの会社が不慣れな在宅勤務を余儀なくされ、それに伴ってZoomなどの遠隔会議システムやTeamsやSlackなどのビジネスチャットツールが急速に普及しました。
この状況は、同じような条件のもとでの急速な変化として、日本中の職場がある種の社会実験のような様相を見せることになりました。
新しいテクノロジーやツールを使い始めるとき、「そういうのは自分は苦手だから」「どう調べればいいかわからない」と言って、なかなか使い方がマスターできない人もいれば、積極的に学び、使いこなそうとする人もいて、くっきり二つに分かれました。
1年たってもZoomの画面共有の仕方もわからない中高年も見かけましたし、一方で積極的に人に教えられるくらい習熟している人もいます。〈変化適応力〉とは、まさにそうした変化への「反射神経」のバックボーンとなる力です。