親と同居しながら、今よりも一人前に近づきたい

【家族構成】
父:74歳
母:75歳
長男:50歳(相談者、当事者)
長女:48歳、家族は夫と大学生の子供1人、実家から車で数時間の距離の持ち家に住む

男性は幼い頃から他人と関わることが苦手という意識があり、親友と言える人はいません。それでも、小中高校時代の級友で、おそらく相手も男性を友人と思ってくれているであろう人は何人かいます。ただ、その友人たちに対して接するときはとても気を使い、気を使わないと友達でいてもらえない気がすると言います。

アルバイトも人間関係に気を遣って疲れてしまい、なかなか長く続かないのだそうです。仕事そのものは「フツウ」にできていると思うので、自分の心がもっと強くなれば仕事を長く続けられるのにと残念そうです。

筆者が男性と話した印象では、言葉を選びながらゆっくりと話す穏やかな口ぶり、高すぎず低すぎない聞き取りやすい声から、良い印象を持たれる人に思われましたが、それも気を遣っているからなのだろうかと考えながら話を聞きました。

ライフプランを立てるにあたっては、父母の収入や資産、生活費がどれくらいかかっているのかなどの情報が必要です。男性はまったく知らなかったので父母に確かめるように頼んだところ、少しずつ聞いてみるとのこと。男性は一人暮らしを望んでいるわけではなく、親と同居しながら、今よりも一人前に近づきたい希望があるので、親の情報が必要になるのです。

何かわかったことがあるとちょこちょこと電話がかかってきましたが、なかなか全貌は見えません。面談はしたくない、パソコンはあるけれどあまり使っていなくてメールもしたくない、郵便も送ってほしくないということで、やりとりは常に電話でした。

ある時、男性は話の途中で突然電話を切りました。1時間ほど後、突然電話を切ったことを詫びる言葉とともに、想定より早く父母が帰宅したため、話を聞かれたくなくて電話を切ったとの説明がありました。

受話器
写真=iStock.com/kudou
※写真はイメージです

実は、ライフプランについて相談していることを父母に知られ、家の中のことを他人に話さないようにと厳しく注意されたそうです。急に家のお金のことを質問しだしたことをあやしんだ母に理由を問われて正直に話したこと、筆者と面談してほしいと伝えたらきっぱり断られたこと、そして、ずっと自分が心の薬を飲んでいることも話してくれました。

ただ、時々通院はしているけれど、病名はついていないのだそうです。心のつらさを落ち着かせるだけの薬であって、男性は病気ではないと強調しました。医師が障害年金の申請について話をしてくれた際、「おかあさんが『うちの子は病気ではない』と説明したら、お医者さんはわかってくれた」し、「お前は本当は病気ではないのに障害年金を受け取ったら本当の病気になってしまう」と言われているから病気ではないそうです。