だが、グアム統合計画や同市長の分析と提案を詳報するマスメディアは、なぜかほとんど見当たらない。そうしたなかで2010年1月24日、辺野古への受け入れの是非が争点となった名護市長選で、反対の立場を鮮明にした稲嶺進新市長が圧倒的な支持を得て誕生。続いて沖縄県議会も2月24日、「国外・県外移設」を求める意見書を全会一致で可決した。

一方、鳩山首相が結論を出す「5月」が迫るなかで、政府は「沖縄基地問題検討委員会」を設け、連立を組む社民党、国民新党との調整を進めている。同検討委の委員長は「名護市長選の結果は政府の決定に影響しない」と放言した平野博文官房長官だ。ちなみに民主党は、08年の「沖縄ビジョン」に「県外移転の道を引き続き模索すべき」「国外移転を目指す」と明記しており、「連立政権合意書」でも「日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」とされている。

普天間飛行場の移設先を巡る「連立与党の迷走ぶり」を昨秋から盛んに報じてきたマスコミは、国民新党の党内案の一つ「キャンプ・シュワブ(沖縄県名護市)陸上案」がまだ検討委にも提出されていなかった時期に「陸上案にかける政府」(朝日新聞、2月19日付朝刊13版)との見出しを打ち、世論を「辺野古陸上案」へと誘導した。

この3月1日現在、普天間飛行場の移設問題がどのような形で着地するのか、まだ誰にも全く見えていない。米国務省と米国防省。日本の外務省と防衛省。旧政権与党で基地利権に群がった族議員の面々と新たな権益を模索する連立内の政治家たち……。彼らの暗闘と綱引きが相変わらず水面下で展開されており、どこに“風が吹く”か、いまだに読みきれないからである。本来であれば、長年の間苦しんできた地元沖縄県民の意思を「定数」として組み上げられなければならない方程式が、さまざまな権益がもつれ合う「変数」で狂わされてきた。

どこに“風が吹く”か。“風”は世論であり、世論はマスコミ誘導で形成される。したがって、沖縄米軍基地を舞台として権益を狙う「変数」の面々が操りたい相手はマスコミである。ところが、現在進行形の“密約”が伏せられたまま情報が錯綜しているため、多くの国民にはいまだに米軍普天間飛行場問題の実相が伝えられていない。

※すべて雑誌掲載当時