現時点で、筆者らはこの「4万人」という数字を客観的に検証できていない。しかし米宇宙技術企業のマクサー・テクノロジーズ社が公表し、ワシントン・ポストが検証した衛星画像を見ると、マリウポリ東方のノボアゾフスクで親ロシア派の勢力が、マリウポリから「避難」してくる一般市民の収容施設を建設していたことが分かる。

国連ウクライナ人権監視団(HRMMU)の広報担当によれば、親ロシア派の武装集団が用意した施設に収容されたとみられるマリウポリ住民の正確な数は把握できていないが、3月下旬の時点で毎日4000個以上の食料パッケージが配布されていた。このことから推定すると「マリウポリからの避難民はかなりの数に上る」。この担当者は電子メールでそう述べた。

真っ先に逮捕・殺害すべき要人リスト

既に食料も水も尽きかけているマリウポリの住民にHRMMUが聞き取り調査をしたところ、避難したいならロシアの支配地域へ行けと(ロシア兵から)言われたという複数の証言があった。ウクライナ側に行きたいという願いは拒絶されたという。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのゴルブノワによると、彼らの調査でも多くのウクライナ市民が、ロシアの支配下にある地域を避難先に選ぶしかなかったと話している。

「強制的にバスに乗せられ、ロシアに連行されただけではない。『親ロシアの2州に行くか、ロシアに行くか、さもなければ死だ』と通告された住民もいる」とゴルブノワは言う。ただし現時点ではヒューマン・ライツ・ウォッチも事実関係を調査中であり、どれだけの人が連行されたかは明言できないとした。

一方、アメリカ政府が入手した秘密情報によれば、ロシア政府はウクライナに攻め込むに当たり、真っ先に逮捕または殺害すべきウクライナ側の要人や著名人のリストを作成していたらしい。

ウクライナの人権団体ZMINAによれば、ロシアによる侵攻後、ジャーナリストや人権活動家、政府職員、教会の指導者など、約90人が行方不明になっている。

いずれもロシア軍に拉致されたとみられ、中には解放された人もいるが、今も40人以上の行方が分かっていないとZMINAのタティアナ・ピチョンチック代表は言う。(ZMINAの集計は目撃者からの通報や家族の証言、警察発表などに基づいており、第三者による検証は得られていない)

だがキーウ近郊のモティジンでは、4月2日にロシア軍が撤収した後、村長のオルガ・スヘンコとその家族が遺体で発見されている。ZMINAの調査員アナスタシア・モスクビチョバによれば、彼らは3月23日以来、行方不明者リストに載っていた。