※本稿は、廣瀬俊朗『相談される力 誰もに居場所をつくる55の考え』(光文社)の一部を再編集したものです。
たわいもない会話も重ねる「しょうもない話をしよう」
ラグビー日本代表のキャプテンを任されていた当時(2012~13年)、「Evernote」というアプリをチームで共有しました。ノートを取るように情報を蓄積できるアプリで、自分たちがやってきたことを可視化して、日々の練習で良かった点と改善点、翌日にフォーカスする点を確認できるようにしたのです。
実際に、どれぐらいの選手が見ていたのか。そこまで多くの選手が、見ていなかったかもしれません。
一人ひとりがモチベーションが高い組織でも、そのまま走り続けるのは難しいものです。その部分をサポートするために「Evernote」はそのひとつの材料でした。「今日もまた、ひとつ良くなったことがあったんだ」と確認ができる場所があれば、「明日もまた頑張ろう」と思えるんじゃないかと考えました。五郎丸歩さんも「見る、見ないは人それぞれだったでしょうが、時間を割かずにみんなで共有できるのは良かったですね」と言ってくれましたね。
「Evernote」に書いてあることは、コミュニケーションの材料にもなりました。全員が漏れなくチェックしていなくても、毎日何かが更新されていることはみんな知っています。知っているから、ちょっと時間が空いたときに見たりするわけです。何となくでも見れば、心にちょっと残る。深く反省するとかではないけれど、その日の自分はどうだったかなと振り返る。
自分はどうだったかと振り返っている時点で、内省しているわけです。そうすると、そばにいるチームメイトに聞きたくなる。合宿中はふたり部屋が多いので、同室の相手とはすぐに話ができます。
「今日の練習なんだけどさ……」といったぐあいに、ちょっと確認をすると、そこからコミュニケーションが始まって、お互いのプレーについて話したり、ポジションごとの話をしたり。気分を換えてラウンジへ行ってコーヒーでも飲もうかとなって、そこでまた違チームメイトに会って、新たな視点が得られて。
ラグビーの話が終わったら、次は普段の話に自然と移っていく。とにかく対話を増やすことはチーム作りの重要なポイントです。たとえば、夫婦間の話とか子どもの話は、お互いの経験が参考になります。とくに失敗談は貴重です。本人はいたって真剣にやったことでも、第三者からすると「それはアカンやろ」ということもあって、お互いに突っ込みながら笑っているうちに、みんなの表情がスッキリしていくこともありました。精神的にリフレッシュできていたのだと思います。
僕自身は真面目な話よりも、しょうもない話を大事にしています。
家族とか親友とは、今日の天気とかランチに何食べたとか、記憶に留めておかなくてもいいような話をしますよね。「何を話そう」とか「何を聞こう」とか考えることもなく、思いついたことを気兼ねなく聞いて、話す。そういう会話の積み重ねから、相手の人となりが分かっていって、心の結びつきが深まっていくような気がします。
仕事だから話をするとか、同じチームだから話をするのではなく、たわいもない会話も重ねていく。「しょうもないなあ」と笑い合う。人間関係を深めていくには、実はそれがとても大事だと思います。