最初に就職したライオンはマーケティングに強い会社だが、私は英文科出身でその方面にはまったく不案内。一念発起して読んだのが、バイブルと呼ばれる『マーケティング・マネジメント』(1)。日本ではいまだに広告や販売促進だけをマーケティングととらえる傾向がある。だが、実は企業のビジョンやミッション、戦略策定を主導する活動であることに気づかされる本。できれば原書で読んでほしい。マーケティングの用語・概念はすべて英語に由来しているからだ。たとえばセグメンテーションとは何か。
「細分化戦略」という日本語はあるが、それだけでは実態を伝えきれない。表現はやさしいので読みやすいと思う。
留学を夢見て入社したものの、大阪の営業所で得意先まわりを繰り返す日々。社会人一年生の屈託を晴らしてくれたのが、小林一三『私の行き方』(5)だ。一三は阪急電鉄や宝塚歌劇団を創始した実業家。沿線に住宅地を開発し、ターミナルに百貨店、郊外に娯楽施設をつくるというビジネスモデルは一三の発想による。住宅広告に「いつもガラ空き阪急電車」と客の視点に立ったコピーを採用するなど、一三の手法はきわめてマーケティング的。その意味でマーケティングのテキストとしても読める。初めて読んだときは「青年は燃えるような希望を持つべきだが、まずは目の前の仕事にベストを尽くせ」という言葉に奮い立った。