脳の研究をしていると、いろいろな質問を受ける。最も多いものの一つが、「脳は全体の10%程度しか使っていないといわれるが、本当か」というもの。実際には、脳の神経細胞は目一杯働いている。それぞれに役割があり、無駄な細胞などない。

それでは、「10%程度しか使われていない」という俗説が流布されているのはなぜか?

一説には、神経細胞の区別が誤解されて伝わったのではないかとされる。

神経細胞には、ニューロンとグリアの2種類がある。ニューロンは活動膜電位というかたちで情報を伝えるが、一方のグリアの働きが以前はわからなかった。しかも、グリアはニューロンの10倍程度ある。このことが誤解されて「10%しか使われていない」という俗説になったらしい。

実際には、グリアはニューロンのネットワークを支えたり、脳内の環境を調整したりなどの重要な役割を担っている。結局、自然の中には無駄なものはない。表面的には何もしていないように見えても、実際には大切な機能を持つ。そんなケースも多い。

それでも、私たちが脳の潜在的能力をフルに使っているかといえば、そうとも言えない。鍵は、システムとしての脳の動作のあり方。そこに、この問題を考える際のポイントがある。

脳には、さまざまな機能の「モード」がある。脳の各領域の活動がオン、オフになることで、異なる活動モードが立ち上がり、その時々の状況に適応するのである。

例えば、脳の中に30の領域があるとして、単純にそのオン・オフを考えただけでも、10億通り以上の組み合わせがあることになる。実際にはどれくらいの異なるモードがあるかを断言することは難しいが、いずれにせよ、そのすべてを私たちが使っていないことは事実である。