※本稿は、竹内一郎『見抜く力 結果を出す人はどこを見ているか』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。
30年間コスパがよくて雰囲気がいい店を案内してくれる親友
私の親友・Kは、コストパフォーマンスのよい飲み屋を探す天才である。Kは演出家で30年来の付き合いだ。Kと友人たちとで、芝居がはねた後、劇場近くで一杯やろうということになる。
そして、初めて行った場所でも、Kが見つけた店は、コスパがよくて雰囲気がいい。決して外さない。それが30年も続いているのである。
Kは私の一つ年上で、もちろん「ぐるなび」などは見ない。若い俳優は、Kが全く知らない街で、いい飲み屋を見つけるのが、不思議で仕方がないようだ。
芝居がはねた後に飲む時は、お金の持ち合わせのある人もいれば、ない人もいる。だから、客単価3000円弱の店が丁度いい。
駅前の大通りには、チェーン店が並んでいる。「鳥貴族」「金の蔵」「磯丸水産」などに入れば、値段的には手頃である。しかし、学生や若者の宴会とぶつかると、うるさくて会話どころではない。
また、チェーン店なので味はそれなりではあるが、それ以上でもない。初めて行った街なら、多くの人は無難にチェーン店を選ぶことが多いだろう。
ぐるなびなどの検索サイトを利用する人もいる。だが、ぐるなびの“推薦店”もやはり、それなりなのである。予想以上ということはまずない。それが、誰もがタッチできる情報の宿命だ。
Kは、駅前大通りから暗い脇道にすっと入っていく。そして右に、左に折れて、細い道にある、地元のリピーターが来るような、居酒屋やイタ飯屋を探し出す。
そこに入ると、うるさい若者はいないし、ほどほどの込み具合だし、料理も抜群というほどではないが、うまいものが出る。30年前は、私もKの動きが不思議で仕方なかった。初めて行った街で、なぜ街路灯も少ない暗い路地を、くねくねと入っていくのか――。