駅前のビル群を見渡し、「鳥の目」で地図を再現する
家の近くに行きつけの呑み屋がある人ならわかるが、リピーターを相手にしている店は、道幅の狭い裏通りに面していることが多い。大通りからは見えにくいので、「一見さん」は相手にしないという商売である。
そういう場所に店をつくろうという店主は、家賃が安いという条件を第一にする。店主が名人級の板前なら、家賃の高い駅前にも店を出せるだろう。
しかし、腕が“並”だと、コスパと店の雰囲気が勝負の分れ目になる。アットホームでくつろげ、地元の人がリピーターになる店は、オーナーの手料理が出て、値段も手頃で、うるさい客も来ない。
Kは、そんな店を探し出していたのである。そういう店は、ぐるなびにはあまり載っていない。
なぜ、Kはそんな店を探せるようになったのか。以下は、私の推測である。
Kは理系脳の持ち主である。駅前のビル群を見渡し、「鳥の目」となって、地図を脳の中で再現するのである。道幅の細い道には、大きなビルは建っていない。脳の中の地図に沿って、2~3階建ての建物が並んでいる、にぎやかでない場所へ向かう。
もちろん、さびれている場所にある店が必ずいい店とは限らない。だが、常連が居ついている店は「見た目」でわかるものだ。センスはいいが嫌な商売っ気がない。
Kは建物群の「見た目」から、地図を再現し、地元のリピーターを相手に商っている店を割り出しているのである。
かくして、駅前のチェーン店に入らないから、うるさい若者のバカ騒ぎに巻き込まれることはない。ぐるなびの情報を信じて「やっぱりこんな感じだったのね。なんだかなあ」という思いをすることもない。
コスパがよく雰囲気がいい店に行きつく情報は、誰にも平等に示されている。しかし、さらに建物群を見て、駅前地図を頭の中で再現しようとする意志・能力は誰にでもあるわけではない。これは自分で意識して育てなければ獲得できないのだ。
うまくないラーメン屋にも行列ができている理由
うまいラーメン屋とまずくなるラーメン屋を見抜く方法もある。
東京では有名ラーメン店の行列は、おなじみの風景の一つである。昔はうまかったのかもしれないが、それほどうまくない店にも行列はできている。例えば、東京・池袋にある超有名店などは、近年「うまい」という人に出会ったことがない。
同店の店頭には、主人の写真はないが、多くの同系統の店の店頭には、店主が笑顔で写っている写真が飾ってある。そして、そのほとんどの店は、有名になった頃には味は落ちている。理由ははっきりしている。
まず、ラーメンを商おうという人は、どんな人か。ラーメンが大好きで、本当にうまいラーメンをお客に届けることが喜びで店を開いたという人は、一握りである。というのも、ラーメン店は短い修業期間で手っ取り早く独立・開業できる業種だからだ。
すし職人やフランス料理のシェフになろうと思えば、最低でも10年の修行が必要である。そこまで面倒なことはしたくない人がラーメンを選ぶ。
加えて、ラーメンをおいしく作ろうと思えば、出汁をとるのにいい材料を使わなくてはならないし、麺も製麺所に「高い粉を使って、指定の手順通りに、丁寧に練り上げてほしい」と注文を出さなくてはならないので、麺の仕入れ値も張る。商品の値段は競合店とそれほど変えられないので、利益率は当然下がる。