クリス・アンダーソンの著書『FREE』がベストセラー入りするなど、いまフリービジネスが話題になっている。「FREE」を直訳すれば「無料」となる。注目されているのは、フリー(無料)でサービスなどを提供することで人々の関心を集め、有料のサービスや商品の販売へつなげていくビジネスモデルである。
たとえば携帯電話向けの釣りゲームなどで急成長しているインターネットメディア会社。ゲームはフリー(無料)で行えるのだが、ゲームをより楽しむための「釣り具」などのアイテムが用意されており、これは同社が販売する仮想通貨を購入して入手する。
つまり、同社は仮想通貨販売の収入を得ているのだ。またゲームの画面に広告を出している企業の携帯サイトに登録してアイテムを得るなどの方法もあるが、この場合は同社には広告収入がもたらされる。
フリービジネスは、新しいビジネスモデルのように思われているが、若干、形は異なるものの、実は従来から浸透している手法だ。たとえばスーパーで食品を試食させ、気に入ったら商品を購入してもらう、というのも、広義に解釈するとフリービジネスといえる。特に食品や化粧品など、安価で日常的に購入する商品については、こうした従来型のフリービジネスが活用しやすいようだ。
実は私自身も、20数年前にフリービジネスを実践していたことがある。大学時代、私は教材の訪問販売をしていた。一般家庭を訪問し、子ども向けの教材を販売する仕事である。
インターホン越しに声を掛けても、「間にあっています」と門前払いされるのが当たり前。かろうじて扉を開けてくれた家には、すかさず独自のフリービジネスを展開する。B4の用紙1枚にまとめた問題集を見せて、「15分間、大学生の私が無料で家庭教師をしますよ」と持ち掛けるのだ。
「それはありがたいわね」と当たりがあれば、子どもを呼んでもらい、小テストを実施する。そして答え合わせをしながら、予定の倍の30分を目安に勉強を教える。
そうやってマンツーマンでの無料奉仕をすれば何より相手が喜んでくれる。そうこうするうちに警戒心が解けて、信頼関係が生まれる。また教えている間の親子の反応で、肝心の教材販売の脈があるかないか、おおよその判断もついてくる。
当時の感覚では、50軒訪ねて、勉強を教えるところにこぎつけられるのは10軒。そのうち、成約するのは1軒程度だった。1セット・30万円もする教材販売で2%前後という成約率であれば、かなり成果の高いフリービジネスであったと思う。こうした将来のビジネスにつながるように無償で試供品を配ったり、サービスを提供するための費用は、会計上、広告宣伝費や販売促進費となる。
外食店が折り込み広告や街頭で配るチラシに無料のドリンク券を付けるというのは、購買促進型のフリービジネスである。別な言い方をすれば、即効性に期待した、抱き合わせ的な販売促進費の使い方と捉えられるだろう。
対して、社名が印刷されたカレンダーやボールペンを無料で配るのは、常に目に付くところに置いてもらうことで「ああそういえば」と必要なときに思い出してもらう狙いが込められている。いわば、メモリー効果を狙った広告費の使い方といえよう。
即効性だけを追い求めるのではなく、じわじわと企業イメージを浸透させ、ブランド力を培い、ファンを増やしていく。そうやって販促費を使いながらフリービジネスを展開することは、決して無駄に終わらないはずである。