職場の本当のコミュニケーションを見ていない

Aさんが考えるべきは、「あなたにとって」ではなく、「メンバーたちから見て」どうだったのかです。

これは「賢い」とされるリーダータイプの方が陥りがちな罠です。

転職先の職場・チームの状況をしっかりとつかまずに理想的提案を始めても、彼らからすれば「現場からズレている」と思われるだけなのです。

「ちゃんと組織のことや事業のことも聞き、理解した上でやりましたよ」

そうおっしゃる方も多くいらっしゃいます。ですが、彼らは職場の本当のコミュニケーションを見ていないのです。

表向きの情報のみならず、実際にはどのような稼働なのか。

業務手順通りにことは運んでいるのか。

また、チーム内での本音のコミュニケーションはどうなっているのか。

功を焦って自分の発信から始めるよりも、まずは新たな上司や同僚、部下たちの話を聞き、良好な関係を築くことに時間をかけましょう。

その上でプランを描き、メンバーたちに問いかければ、全く異なる反応・反響が得られるはずです。

オフィスで働くビジネスパーソン
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです

落とし穴②「前職ではこうだった」という出羽守になる

転職に成功した幹部クラスの方にも、意外な落とし穴があります。

これまでの経験や専門性を買われて入社したわけですから、「自分の専門性やプロフェッショナリティを提供しよう」と頑張ります。それ自体は当然良いことですし、転職先から期待されていることでもあります。

大手住宅メーカーから同業の中堅住宅メーカーへと転じたBさん(52歳)は、着任後、最初のミーティングで同僚や部下たちに、以下のようにあいさつしました。

「私は前職まで戦略策定で実績を残してきました。いろいろと教えてあげるから、なんでも聞いてください」

沈黙の後、メンバーの一人が「ありがとうございます、ぜひお願いします」と言葉を発したそうですが、その後、Bさんに仕事を聞きにくる人は現れなかったそうです。

Bさんに悪意は全くないのです。

「この会社には前職で使っていたあのシステムを入れたほうがよい」「この部署には、前職でうまくいっていたKPI管理を入れよう」

提案は素晴らしいのですが、Bさんはこの会社で新参者であることにまったく気が付いていないのです。

「教えてあげる」ではなく、「教えてください」

同僚たちからすれば、うちのことをわかってないくせに、いくら同業大手から来たからといって、いきなり勝手流でこれまでの会社のことを持ち込まれても困る、と思っているわけです。

メンバーたちは「教えてあげる」ではないだろう、と内心思っていることにBさんは気がつくべきでした。

郷に入っては郷に従え。まず発信すべきメッセージは「教えてあげる」ではなく、この会社のことを「教えてください」なのです。