トランプ氏に同調する企業や億万長者が出資

こうした極右メディアはどのぐらい普及しているのだろうか。昨年12月にリベラルのオンラインメディア「Axios(アクシオス)」が配信した記事によると、大手メディアや主要SNSのエコシステムに対抗するために、保守派は独自のアプリや暗号通貨を積極的に構築している。その背後にはバイデン政権による、環境対策や人権問題などのさまざまな規制に反対する大企業やビリオネアがいるとしている。

YouTubeの代替メディア、ランブルに資金をもたらしたSPAC(特別買収目的会社)の背後には、トランプの資金調達者として知られるハワード・ラトニック氏率いる金融サービス会社キャンター・フィッツジェラルドがいる。

トランプ氏のTruth SocialもSPACを介して株を公開する予定で、すでに10億ドルを確保したと報じられている。またSNSのGETTRは、資金提供者の1人が中国の億万長者である郭文貴であることを認めている。

ロックフェラー・センターから見るエンパイアステートビルの見えるニューヨークの景色
写真=iStock.com/Shooter_Sam
※写真はイメージです

他にもトランプ・ジュニアが運営するウィニング・チーム・パブリッシング、「マガコイン」と呼ばれる暗号通貨まで、トランプ氏の影響力は多岐にわたっている。

こうした動きの目的は今秋の中間選挙、そして2024年大統領選に向けて、保守の声を広げるだけでなく、トータルな保守のエコシステムを構築することでもあると記事は結論づけている。

「トランプ大統領待望論」はいっそう高まる

こうした保守の新たなエコシステムが目指すのは、バイデン大統領を引きずり下ろし、再びトランプ氏を担ぐことにほかならない。

ウクライナでの戦争が泥沼化し、万が一プーチン氏に少しでも有利な状態で戦争が決着することになれば、批判の矛先はバイデン氏に向かうだろう。もしそうでなくても、経済制裁の影響でインフレが進行し経済が悪化すれば、全部バイデン氏のせいということにもできる。

アメリカの分断と政治不信はウクライナ侵攻によりさらに進んだと言っていいだろう。そしてこうした不信が国に混乱をもたらす状況が、アメリカだけでなく、ヨーロッパや日本にも波及していることは想像に難くない。

分断が進む要因として、 アメリカ政府の情報開示が十分でないとの指摘もある。しかし一番危険なのは、何が本当なのか分からないというムードが蔓延し、信じたいものだけを真実だと思い込むようになることだ。戦争で多くの人が命を落とし、住みかを失っているという冷徹な現実を直視したくないからこそ、人は陰謀論に逃げるのかもしれない。

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