またさらに、極右のポッドキャスターとして人気のエリック・ストライカー氏は、マリウポリの病院が爆撃された際に、大怪我をして運ばれた妊婦(後に死亡が確認された)の写真がアメリカメディアによる演出であるという発言をした。

こうした陰謀論は、トランプ落選が「盗まれた選挙」としディープステートの存在を信じる支持者の政府やマスメディアへの不信に根を張り、さらにコロナ禍での反ワクチン、反マスクにつながり、今は反バイデンという流れにつながっている。

GETTR、Truth Social…増える保守系SNS

こうした情報はアメリカで一般人の目に留まることはほとんどない。気づいた時にはSNSを通じて世界中に広がっているというのが現状だ。

トランプ支持者の中でも極右と呼ばれる保守層は大手メディアを嫌い、テレビを見たり、新聞を読んだりすることもほとんどない。テレビはせいぜいフォックスニュースで、情報収集はもっぱらネットニュースや、フィルターバブルのかかったSNS投稿だ。中にはインフォウォーズしか読まないと公言する人もいる。

トランプ氏が在任前から言い続けた「フェイクニュース、メディアは国民の敵」の大合唱は、こうして彼らの間で完全に定着している。そもそも彼らからすれば、東海岸のリベラルエリートが作り出す論調は、自分たちの価値観とは相入れないものだったという背景もある。

しかし、こうした極右のプラットフォームはYouTube、Twitter、Facebookからも締め出されている。そのため代替メディアとしてカナダの動画共有サイトRumble(ランブル)、トランプ氏の側近ジェイソン・ミラー氏が立ち上げたSNSのGETTR(ゲッター)やロシアのSNSであるTelegram(テレグラム)、トランプ氏が立ち上げたTruth Social(トゥルース・ソーシャル)などの保守御用達のSNSが人気となっている。これらはリベラルが決してやってこない保守派の天国だ。SNSさえも分断してしまっているのだ。

スマートフォンに表示された各SNSのアイコン
写真=iStock.com/Victollio
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「世界の秩序を取り戻せるのはプーチンだけ」

例えばGETTRの投稿を見ると、「#バイデンは失敗だ」「#アメリカを裏切っている」「#バイデンは嘘つきだ」といったハッシュタグが踊り、「バイデンがアメリカをロシアとの戦争に駆り立てた」「このひどいインフレはバイデンの責任」など攻撃の投稿が並ぶ。

かと思えばプーチン氏を支持する投稿もある。「アメリカメディアは嘘をついている。世界の秩序を取り戻せるのはプーチンだけだ」。また明らかなデマだが、「これが真実だ! ウクライナには30カ所ものバイオ研究所がある」という投稿も。Twitterなら即座に炎上しそうなものばかりだが、GETTRでは同意するコメントが目立つ。

かつて保守派は、リベラルメディアを同じ意見ばかりが集まっているとして「リベラル・エコーチェンバー」と揶揄やゆした。ところが今では、保守派のほうが同様のエコーチェンバーにすっぽりおさまってしまったかに見える。

しかも、こうした動きはマイナーなものとして片付けられない規模になりつつある。