「反バイデン、親ロシア」の記事ばかり

侵攻当初はこのようなプーチン擁護の論調が多かった保守メディアだが、戦局が長引いて難民問題が深刻化し、ゼレンスキー大統領が世界でヒーローとして認知されると、今度はこの戦争自体を軽視しつつ、バイデン大統領を攻撃する報道体制が強くなってきた。

例えば20日付の大手メディアと保守系、さらに極右メディアの電子版の紙面を比べてみると、ニューヨーク・タイムズが戦闘の激化や民間人の犠牲者にスポットを当てているのに比べ、インフォウォーズのトップは北朝鮮のミサイル発射記事だ。

そして並ぶのは、戦局そのものではなくバイデン氏を攻撃する記事ばかり。「クレムリンは過敏で疲れきって物忘れの激しいバイデン大統領に突きを加えている」「ゼレンスキーの高等補佐官がバイデン氏に対し“度胸があるならキエフにどうぞ”と発言」などの見出しが並ぶ。息子ハンター・バイデンへの攻撃も人気のトピックだ。もちろん大手メディアではまったく扱われない、フェイクまがいといっていい内容がほとんどだ。

並べて置かれた英字新聞
写真=iStock.com/Sezeryadigar
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民間人への無差別攻撃で多くの犠牲者が出ている今、プーチン氏を擁護するのは難しい。一方でバイデン氏は、第3次世界大戦を避けるためにはロシアとの直接対決を何としても避け、外交と経済制裁さらに武器供与のみで何とか解決しようとしている。それを弱腰であり、プーチン氏を抑えられないというイメージにすり替えて、バイデン氏を攻撃するというスタンスをとっているわけだ。

ロシア国営メディアの記事を米国サイトが転載

ここで注目すべきは、インフォウォーズがロシア国営メディアのスプートニク・ニュースの記事を転載していることだ。トップニュースの中に「ロシア国防省:キエフの西で100人以上のウクライナの秘密作戦部隊と外国の傭兵が排除された」という記事を滑り込ませている。見出しの下には「by Sputnik」と署名があり、ロシアのプロパガンダを保守派アメリカ人に対してもばら撒いているのだ。

一方、ロシア国営メディアもアメリカ極右の報道を利用している。国営テレビ番組「60ミニッツ」(アメリカCBSの老舗番組と同じタイトルだが何の関係もない)では、タッカー・カールソン氏の映像とともに、司会者が「彼の報道はわれわれの意図と一致している」とコメントしている。また当局からロシア国営テレビに対し、こうしたフォックスニュースのコンテンツをどんどん放送するようにという命令が下ったという報道もある。

ロシアと極右メディアは相互フィードしながら、同じメッセージを増幅させているのだ。

こうした状況をリベラルのワシントンポストは「プーチンの情報戦はトランプ氏と保守メディアから重要な援護を受けた」という見出しで伝え、ニューヨーク・タイムズは「ロシアと極右メディアがウクライナの戦争でどう意気投合したか」という記事を出している。