原油価格がさらに上昇したら、政府は打つ手がなくなる
そこに加わったのが、ウクライナ戦争である。ロシアのウクライナ侵攻と共に、西側先進国がそろってロシアへの制裁に踏み切ったこともあり、原油をはじめエネルギー価格は大幅に上昇している。これによって世界的なインフレの火に油が注がれることになった。
日本でもガソリン価格が高騰、政府は巨額の資金を注ぎ込んで、石油元売り会社への補助金を積み増し、小売価格を抑えようと必死になっている。戦局が膠着状態になっていることに加え、OPEC(石油輸出国機構)による増産期待があって、今のところ上昇ピッチは鈍化しているが、「国家」が「市場」をコントロールしようとするのは歴史的にも無謀な試みと言える。さらに本格的に原油価格が上昇した際には「打つ手」がなくなる懸念もある。
懸案になっている「トリガー条項」の凍結解除によって揮発油税にかかっている上乗せ分を撤廃することは、税収減に直結するため財務省が最後の最後まで抵抗しており、財務省の意向を無視できない岸田文雄内閣はなかなか決断しないだろう。
現在、日本の電源はLNGに大きく依存している
もうひとつ懸念されるのが電気料金の大幅な上昇だ。東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故以来、原発稼働がままならず日本の電源はLNG(液化天然ガス)に大きく依存している。LNG輸入の8%あまりをロシア産に依存しているため、その帰趨が注目される。
ロシアへの制裁では、米国がロシア産原油やLNGなどのエネルギー輸入を禁止したが、依存度の高い欧州は禁輸にまでは踏み切っていない。エネルギー代金を決済するロシアの最大手銀行なども銀行間の国際決済システムであるSWIFTから排除していないのは、ロシアから欧州へのガス供給を止めれば、たちまち西欧諸国の人たちの生活に大打撃を与えることになるためだ。ドイツの場合4割以上をパイプラインを通じたロシア産ガスに依存している。
英エネルギー大手シェルが早々にサハリンでの石油ガス開発事業「サハリン2」からの撤退を表明したが、同様に出資する三井物産と三菱商事は態度を保留している。萩生田光一経済産業相は「利権を手放せば第三国がそれを手に入れるだけで、制裁にはならない」と国会答弁しており、政府としては何とかロシアからのLNG調達を続けたい考え。日本が撤退すれば、中国が利権を獲得するのが関の山というわけだ。