心の豊かさを追い求め、日々の生活を楽しもうとすると、おのずと和風志向が高まる。三浦展氏はこう指摘する。その理由は以下の3つだ。

三浦 展●カルチャースタディーズ研究所主宰、消費社会研究家、マーケティング・アナリスト。一橋大学卒。パルコ、三菱総合研究所を経て現職。『下流社会』『シンプル族の反乱』など著書多数。

「一つには、正統性。この不安な社会状況では、やっぱり長く続くものに人は惹かれるんですよ。その点、日本は老舗大国。エルメスといえども、その歴史は150年程度ですが、日本には700年前から続いているような老舗が身近にごろごろある。

もう一つはデザイン志向だということです。これは特にシンプル族に顕著なんですが、いいデザインが欲しいと思うと、どうしても一点ものにたどりつく。そうすると和物にいってしまいます。ヨーロッパの手頃な一点ものといってもあまり情報がないし、手に入れにくいですからね。

3つ目に、和物は日常生活の中で気軽に楽しめる。西洋のモノは無理しないとわからないし、毎日は使えない。日々を楽しみたいと思うと和になるんですよ」

エコ志向も和風志向の一環といえるだろう。日本には「もったいない」という概念がある。モノを捨てず、手を入れながら大事に使い続けるエコ志向は、日本人ならではの価値観だ。

三浦氏によれば、富裕層がブランド品を新調せず、以前買った服を持ち込んでくるため、百貨店内のクリーニング店の売り上げが伸びているという。新しく買い替えるよりは、たとえ価格が高くても高い技術を有するであろう店を信頼し、衣料のメンテナンスに努めているわけだ。

「直して使うことが『楽しい』と思えるようになってきた。そもそも、まだ使えるのにどんどん新品に買い替えさせるというシステムが反エコでしょう。もう、消費者に長く使われると困るような産業のサイクルではまずいわけですよ。そういう分野は中国に任せちゃって、日本はリペアやメンテナンス産業をもっと伸ばしたほうがいい。ここ1年少しで、シェアし、リペアして生活すること自体がトレンド化し始めている。それが当然だという世の中になれば、そこに雇用が生まれるし、技術も伝承される。それが消費の拡大につながっていくと思います」