不安な時代だからこそ、消費者は心の豊かさやちょっとした楽しみを求めている。「鍵はbeing消費にあり」と話すのは、小阪裕司氏だ。

三浦 展●カルチャースタディーズ研究所主宰、消費社会研究家、マーケティング・アナリスト。一橋大学卒。パルコ、三菱総合研究所を経て現職。『下流社会』『シンプル族の反乱』など著書多数。

「人々の消費欲求が、havingからbeing に向かっています。havingとはモノに直結する消費ですが、beingは自分が大好きだと思える『私』になるための消費。この消費行動を起こさせる情動がフルフィルメント(fulfillment)です。

私はワクワクと言い換えていますが、必ずしも浮き立つ気分だけを指すのではありません。リゾートで心静かにしみじみと過ごすひとときやマラソンでゴールしたときに得られる達成感もワクワクに入る。

振り返れば、80年代から日本人はモノの充実よりも心の充実を追い求めてきました。心の豊かさを求める志向はいま急に起きたのではなく、リーマンショックで加速したのでしょう。『これがbeingだ』と思えば、必ず客は買う。商売人はもっと価値創造をすべきです」

三浦展氏が名付けた「シンプル族」(団塊ジュニア世代で、モノをあまり消費せず、ためこめず、手仕事を重んじ、基本的な生活を愛する消費者)にはこんな消費行動が見られるそうだ。

「一杯1000円のコーヒーを出す百貨店の喫茶店は人気がないけれど、100グラム3000円の美味しいコーヒー豆はよく売れている。高い豆でも家でいれて飲めば一回300円。よそでまずいコーヒーを飲むよりはずっと豊かですよね。自分でいれたほうが美味しいんだと気がつけば、新しい消費のサイクルが生まれてくる。こういった消費者の変化に目を向ければ、衰退していた産業でも息を吹き返すことができるのでは」(三浦氏)

自分らしい生活を送る中で、ちょっとした豊かさを追求する消費者は、モノには振り回されない。所有欲も薄い。軸になるのは「大好きな自分」だ。