ホテルの視察にネット予約を使わない理由

野球でもゴルフでも、プロともなれば、遠征中のホテルの部屋でスイングの練習をするのが当たり前だ。サービス業のプロも同じ。その地位を保ちたいのなら、日ごろからの自己研鑽けんさんは欠かせない。

サービス業従事者にとって幸いと言えるのは、自分を磨くための環境が身近にあふれているという点だ。例として、電車に乗ってどこかへ出掛けるときのことを考えてみよう。切符を買う際に、券売機の使い勝手が悪いと思ったら、どうすればもっと使いやすくなるのかを自分なりに考えてみる。

さらに、駅員の態度や案内板の位置を顧客目線で観察しながら、改善点がないか自分なりに検討してみてもいいだろう。こうした一つひとつの行いがサービス業従事者としての仕事の質の向上につながっていく。

私は商売柄、よくホテルを利用する。ネットさえつながれば、予約はいつでもどこでも簡単にできる。だが、あえてネット予約を利用せず、毎回直接ホテルに電話を掛けて予約を取っている。

こんな手間をかけるのは、ホテルの予約担当者の応対から学び取れるものがあれば、ぜひ学びたいと思っているからだ。それだけでなく、できるだけ多くの現場体験をするために、お気に入りのホテルがあってもそこには泊まらず、別のホテルに泊まるようにしている。

ラウンジチェア
写真=iStock.com/Terraxplorer
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駐車場、フロント、照明…「おもてなし」はいたるところにある

これらを続けていると、実に様々な発見がある。駐車場の位置がわかりづらい、もしくはフロントの人の説明がわかりやすい、レストランの照明が凝っているなど、いろいろなことが見えてくるのだ。気が付いた点はメモに取るようにしている。あとでそれを見返して、どうしてそう感じたのかを割り出していくのだ。

出張中でも、プライベートの旅行中でも、アンテナを常に張り巡らせておけば、おもてなしの質を上げるためのヒントはいたるところで見つけられるだろう。

テラス蓼科では開業前に、あらゆる施設のベンチマークテストなどを行った。ホテルやレストランだけでなく、おもてなしに関する施設、例えば山梨県白州はくしゅうにあるサントリーのウィスキー工場では、施設を案内するスタッフの教育がよくなされているとのうわさを聞き、そこに足を運んで接客の参考にした。

開業後も毎年冬の閑散期になると、予算を取って2泊から3泊のスケジュールで東京へ行き、話題のホテルや勉強になりそうなレストランを視察している。時間があれば、個人的なおもてなし視察も欠かさなかった。