とはいえ、現政権は外務省主導の対米追従外交で「欧米vsロシア」の軍事対立がエスカレートする世界的な危機を乗り越えられるのか。

岸田政権はロシアへの経済制裁で欧米と歩調をあわせた。さらにウクライナに武器支援する欧米にならって防衛装備品の提供にも踏み切った。安倍政権下で武器輸出を事実上禁じる「武器輸出三原則」は撤廃されており、それに代わる「防衛装備移転三原則」の運用指針を変更して防弾チョッキなどの無償提供を断行したのだ。

人道支援や避難民受け入れとは明らかに次元の違う「軍事支援」である。プーチン氏が経済制裁を「宣戦布告」とみなして核兵器使用をほのめかすなか、ロシアと軍事的にも対立する姿勢を鮮明にしたのだ。

これは北方領土交渉に悪影響が出るというレベルの話ではない。日本の北に広がる軍事大国ロシアの脅威はもはやひとごとではなくなった。ロシアとの対立を深める欧米の背中を追いかけているうちに日本も重大な安全保障上のリスクを抱え込む事態になったのである。岸田政権にその自覚はあるのだろうか。

状況対応型でずるずる追い込まれる岸田政権の姿勢は内政でも同じだ。

ウクライナ危機で露見した「安倍外交」の実像

安倍氏らが提案する「米国との核共有」について、岸田首相は当初「非核三原則を堅持するというわが国の立場から考えて認められない」と明確に否定していた。しかし、自民党内で非核三原則見直しを議論するべきだという声が高まると、岸田首相を支える茂木敏充幹事長からも「議論の余地はある」との声が出始めた。

経済制裁で日本国内でも原油価格は急騰し、消費者物価はじわじわ上昇しはじめ、国民の暮らしを直撃している。コロナ禍に続くウクライナ戦争で安全保障や国内経済の危機は強まっているが、外務省や財務省が主導する従来型の政策決定を進める岸田官邸が事態の打開を主導する気配はほとんど感じられない。すべては状況対応型で後手後手だ。

欧米とロシアは2014年以降、ウクライナを舞台として激しい主導権争いを続けてきた。日本は安倍長期政権の下、ウクライナ情勢にはまったく無頓着で、安倍―プーチンの蜜月外交を繰り広げてきた。ロシア軍のウクライナ侵攻は国際法に反する断じて許されない暴挙だが、そうした事態を招いたのは欧米の対ロシア外交の失敗である。

そうしたなかでプーチン氏と関係強化を目指してきた日本に対して仲介役を求める声が欧米からもロシアからもその他の国際社会からもまったく上がってこないのは、いかに「安倍外交」が国際政治から遊離した頓珍漢な自己満足にすぎなかったかを物語る。

そして「安倍外交」にトラウマを抱く外務省主導の米国追従外交もまた国際社会から見向きもされていないのだ。ウクライナ情勢をめぐる国際政治のなかで日本の存在感の薄さは、この国の国力低下を如実に映し出しているといえるだろう。

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