イーロン・マスクの「現実思考」は輪郭に見て取れる
同じ起業家でも、輪郭どっしりのディラテと、面長のレトラクテでは、やや方向性が異なってきます。
社会を一変させるような「イノベーション」をもたらす起業家ということなら、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズ氏や、前出のマーク・ザッカーバーグ氏を筆頭に、レトラクテが主流といえます。
一方、ディラテの場合は、より「現実社会」と地続きになったビジネスを興すのが得意です。近年注目されている「社会起業家」は、貧困国に新たな雇用を創出するなど、世界が抱える社会問題の解決を目指したビジネスを展開していますが、こちらはまさにディラテが得意とする領域です。
面白いのが、電気自動車メーカー「テスラ」のCEOであるイーロン・マスク氏。一般的には「イノベーター」として知られており、事実、若いころは典型的なレトラクテでしたが、年齢を重ねるほどにディラテへと輪郭が変わっています。
マスク氏の場合、実現できない理想は描かないタイプ。地球の温暖化を食い止めるためにEV(電気自動車)を普及させるという目標を掲げつつ、初期は新しもの好きの富裕層やセレブを狙った高級車をリリースして、その利益をより手ごろなEVの開発費に投資するという路線を取っています。
また、人類の火星移住を目指して立ち上げた宇宙事業の「スペースX」でも、ロケットの開発費を大幅に削減することでシェアを獲得しました。決して「絵に描いた餅」では済まさない現実志向が、彼の輪郭に見て取れると言えるでしょう。
「保守的」なジョブズが成功できた理由
相貌心理学では、顔を個々のパーツではなく全体のバランスで診断しますが、起業家についてはとりわけ、個々のパーツだけでは見えてこない点も多々あります。
たとえば、人事や個人経営者の項目では、「横から見て垂れ下がった鼻先」は、保守的で冒険できない人の特徴として紹介しました。
しかし、かのスティーブ・ジョブズ氏のように正面から見ても鼻先が矢印のように下に向いて垂れ下がっているのであれば、それは「否定の鼻」となります。
ジョブズ氏の場合、額の高さに彼の理想の高さがはっきりと表れています。そこに、この「否定の鼻」が加わると、「周りのあらゆる選択肢に厳しくダメ出しをすることで、その先の可能性をさらに想像し、完璧な世界観や価値観をつくり上げる」という姿勢となって表れます。
いわば「否定から入るイノベーション」に、ジョブズ氏のスタイルがあるわけです。
ZOZOの創業者である前澤友作氏の場合、横顔を観察してみると、びっくりするほど「平ら」な印象です。額はまっすぐですし、鼻から下のラインもまっすぐ。出たり引っ込んだりしているところがないのです。
これまでにも解説してきたように、まっすぐは「ブレーキ」、傾斜は「アクセル」のサイン。これほど横顔が平らなのは、「とことん石橋を叩いて渡る」性格の持ち主であることを意味します。
1億円のお年玉をSNSのフォロワーに配ったり、月旅行を計画したりといった、破天荒な前澤氏のイメージとは矛盾するように感じられるかもしれません。
このタイプの人は、何事も「測る」のが人生の基本方針です。自分の価値、相手の価値、仕事の価値――そのすべてを、自分独自の物差しで厳密に測っています。
したがって、一見、突飛に感じられる前澤氏の行動も、その裏には綿密な計算があります。なんなら「失敗」や「炎上」さえも織り込み済みでしょう。ただの思いつきによる破天荒ではないところに、成功した起業家ならではの非凡さがあると言えます。