食事には困らないので、お金もあまりいらない

しかし、空き缶拾いが「できない」のではなく「あえてやらない」というホームレスがいるのも事実だ。私は荒川河川敷に2週間ほどテントを立てて暮らしていたが、河川敷は24時間ベースを構えることができ、空き缶も保管できる。ならば路上にいるホームレスはみんな河川敷に来て空き缶を拾えばいいのにと思うかもしれないが、それをしようとはしない。

24時間ベースを構えられないホームレスたちはどこかに荷物を保管しておく必要がある
筆者撮影
24時間ベースを構えられないホームレスたちはどこかに荷物を保管しておく必要がある

正直言って、路上でホームレスをやる分には空き缶拾いをしてまで金を稼ぐ必要がないのである。新宿西口地下広場で10年近く暮らすホームレスが言う。

「空き缶? そんなのやらないよ。お前も俺と一緒に暮らしていたらわかるだろうけど、飯は炊き出しで腹いっぱい食えるんだからそんなに金いらないだろうよ」

新宿、渋谷、池袋、上野、山谷など都内では毎日どこかで炊き出しが行われており、それに加えて食料を配り歩いてくれるボランティアの人々もいる。私もホームレス生活中は炊き出しを巡って生活をしていたが、その結果2カ月間で使った食費はたったの数百円だった。決して、「ホームレスは飯に困っていないのだから炊き出しは不要だ」と言いたいわけではない。数ある支援団体の尽力のおかげでホームレスたちの食生活は守られているということだ。

みんなが持っている“手帳”

「路上で生活するんならお前も早くダンボール手帳を作れ。誰でも作れるし、みんな持っているんだからやらない意味ないだろ」

私がホームレス生活中に何人ものホームレスに言われた言葉である。路上で寝る野宿者のための手帳なので、通称ダンボール手帳と呼ばれている。この手帳を持っていると、「東京都特別就労対策事業」という仕事を月に3回ほどもらえ、1回につき8000円ほどの収入になる(区によってその金額は変わる)。

仕事といっても公園などの掃除を数時間するだけで、中には数十分や数分で終わる現場もある。スーパーJチャンネルなどのワイドショーで「掃除1分で日当8500円 ホームレスら“ウソ労働”報告」などと報道されたこともあるが、都もなにも本当に掃除をしてもらいたいわけではない。あくまでも、ホームレスに最低限の生活を支給するための福祉の一環と考えていいだろう。

何か特別な信念(行政の手助けは受けないなど)を持っていない限り、実に多くのホームレスがダンボール手帳を取得し、月に2万円強の収入を得ており、炊き出しでは配られることのない酒やタバコを購入する金に充てていた。