「相手をどう呼ぶべきか」という日本独特の“壁”
日本人の横並び意識や序列社会の背景の一つに、相手をどう呼ぶかという呼称の問題があります。「山田さん」「山田君」「山田」。例えば、山田さんのことを呼ぶ時、少なくともこの3通りがあります。「山田さん」と呼ぶ場合、この山田さんは、初対面の人か、自分より年上の人、先輩や上司などになります。次に、「山田君」「山田」と呼ぶ場合、山田さんは、同級生や同期、または後輩や部下などです。
英語や中国語は比較的シンプルですが、日本語はややこしいです。繊細な日本の文化を象徴する大切な呼称かもしれません。ただ、こうした名前の呼び方に反映されている意識が、日本人の横並び意識や序列社会の背景となり、画一的な社会を助長しているのではないかという問題提起です。これが、時には人の判断を萎縮させたり、人生の選択肢の幅を狭めたりしていないかと気になっています。
1年や2年浪人して大学に入る人はたくさんいます。大学院を出て就職すれば、職場での年齢差は開きます。せっかく大学院まで出たのに、職場で年下の先輩に、呼び捨てにされるケースもあるでしょう。呼び方をめぐって、戸惑ったり、不愉快な思いをしたりした経験は多くの人が有していると思います。年齢差や組織での順番によって、相手をどう呼ぶのかという意識は、日本社会である種の「壁」になっているのではないでしょうか。
円滑なコミュニケーションを図るために、上司部下や年齢に関係なく、「さん」で呼び合う会社もあります。確かに、職場や学校など、家族や親しい仲間同士以外では、全員がお互いを「さん」と呼び合うのは、良いアイデアだと思います。「さん」で呼び合えば、すっきりして、威圧、萎縮、遠慮など余計な感情が入り込む余地が小さくなるかもしれません。年齢や立場に関係なく、みなさんが「さん」づけで呼び合うようになれば、前述した「エイジフリー」も社会に広がりやすくなるのではないでしょうか。
「お前」呼ばわりはパワハラになる可能性すらある
職場で、上司や先輩が、部下や後輩を「お前」と呼ぶのをやめてほしい。
こんな声を最近よく聞きます。「お前」と呼ぶ人にとっては、「親しみを込めて言っているのに」という理屈もあります。
しかし、受け止める側の意識は、必ずしもそうではありません。不愉快と感じる人もいます。上司が部下に「お前」という場合、状況や受け手の感じ方次第では、パワハラに該当するかもしれないといった考え方も出てきています。時代はここまで来ています。
例えばですが、お互いに「さん」と呼び合うようになれば、すっきりするかもしれません。「うちの主人が」「お宅のご主人はどう?」。妻などが夫のことを「主人」と呼ぶケースはいまだに多いと思います。でも、「主人」って、ちょっと変な感じがします。夫が主人なら、妻は何なのでしょうか。「主人」とは、古い「家」の制度、文化を引きずった言葉なのでしょうか。名前で呼んだり、「夫」「妻」「相方」「パートナー」と呼んだりすれば、上下関係や格付けされた印象を感じません。
普段、当たり前のように使っている言葉でも、自考してみる必要がありそうです。