インターハイ出場の体育会系が初めて猛勉強し25歳で地方公務員に

FC東京を辞めて退路を断った。そして試験勉強を始めた。バレーのネットワークを生かすには体育館があるところ。白岡市には大きな体育館がなく隣町の宮代町の職員に狙いを定めた。

「推薦で学校に行っていたので生まれて初めて勉強しました(笑)。自宅で1日に8~9時間。4カ月ぐらい勉強しました。2年ぐらいかかると思ったんですが」

50人ほどが受験して合格者は9人。運よく、一発で受かり、晴れて25歳で入庁となった。

ところが、配属先は、希望とはまったく異なる建築課。建築開発、家を建てる時の法規審査のチェック、空き家対策、公園管理……と完全に門外漢だ。

温めていたビジョンは置き去りにされ、自分のキャラクターや強みも生かせなかった。Jリーグを経由して公務員というキャリアもそこでは不要なものだった。異動希望を出し続けて努力して3年間が経過。ようやく今の部署の配属になったが、今度はコロナ禍で特別定額給付金担当との兼務になった。

「住民からの電話が鳴りやまないんです。『(対応が)遅い』とか『(給付は)いつになるんだ』とか。こっちを切ったらあっちが鳴ってと。銀行口座を教えてもらって、ひたすらシステムに数字を打ち込んでいました」

それから半年経って、やっと腰を据えて“シャレン”を考えることができるようになる。悩みは年間予算二十数万円のうち、スポーツ関連に充てられるのは微々たる額だということだ。その中でこの1年、スポーツチームは5つ、日本代表選手を10人ほど呼ぶことに成功した。

「例えば、交通費だけで来ていただくこともあります。フェンシングの日本代表選手も1万円。少ない額なのに、快く協力してくれる選手に感謝してます」

仕事柄、週末の出勤も多く、給料は手取りで20万円ほど。異動で来年この部署にいるかはわからないというサラリーマン特有の不安もある。

「公務員アワード」を受賞時、全国の地方公務員からは次のような称賛の声が届いた。

「ポジティブで諦めない行動力に勇気づけられる。スポーツと地域の可能性を見せている」
「スポーツ版子ども食堂の視点が大変おもしろい。また自分の自治体のみならず他地域にも感動を届けようとしている姿勢がとても素敵だ」
「異色の公務員!そんな経歴を存分に活かした取り組みを継続し実施しているところがすごい」

現在30歳、自分の未来もどんどん切り拓いていきたい。

伊藤遼平さん
筆者撮影

「実はプロチームと地域を結ぶマネジメントもしてみたいんです。公務員の働き方も多様になってくるので有償ボランティア(副業)でできないかなと(笑)。自分の一番のスキルはバレーのコーチができることですが、それはまだ生かせていません。今後、部活動が学校から地域に移されたら活躍の場が出てくるのかもしれません。教員への転職も選択肢のひとつに数えています。教員免許も大型バスの免許も取りました(笑)」

指導の道に進むのか、イベントマネジメント系の才にかけるのか。答えがまだ出ない。ただ、人の役に立ちたい。その気持ちに変わりはない。

あるイベントでバレー選手と年齢・性別もさまざまな子供たちがボール遊びをした時のことだ。

「ひとりのお母さんから『ウチの子が心の底から笑っているのを久しぶりに見ました』と言われたんです。スポーツは力になる、人を前向きできる力があると思ったんです」

そうした生の体験がスポーツを生かした街づくりに挑む伊藤さんの大きな原動力になっている。

【関連記事】
客に「ウチの会社で働いて」と誘われるスゴ腕店員…1皿3個の唐揚げを3皿頼んだ7人客に返した"神フレーズ"
「親が低年収だと、子は学力だけでなく運動能力も低くなる」最新研究でわかった残酷な現実
「部屋の真ん中で自慰行為を始める女の子」職員も頭を抱える"障害児の学童"の性トラブル
「大企業に入ってダラダラと働くのが一番おトク」日本経済が活力を失った根本原因
ダメな上司ほど最初に使ってしまう…「部下との1対1」で避けたほうがいい"ある言葉"