※本稿は、吉野実『「廃炉」という幻想』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
東電は「5兆円では全く足りない」と国に泣きつく
図表1は東京電力が作成した福島第一原発(1F)事故収束費用、すなわち「廃炉」「賠償」そして「除染・中間貯蔵」に必要とされる資金をまとめたものだ。
当初、国は事故収束費用を5兆円といい、それが2013年12月には11兆円になり、さらに2016年12月に出された「東電改革提言」では22兆円に膨れ上がった。いくら世界に類例のない事故であるとしても、この増額は酷い。わずか5年の間に倍、倍で増えていっている。少し、詳しく見ることにする。
1F事故後、国は廃炉、賠償、除染に巨額の費用がかかるため、「原子力損害賠償支援機構法」に基づき、同機構に5兆円の交付国債を発行し、同機構を通じて東電に資金支援を行ってきた。
筆者は当時、経産官僚に「5兆円で本当に足りるのか」と何度も尋ねたが、担当者は「足りる」と主張し続けた。しかし、2012年末ごろにはもう「5兆円では全く足りない」と、東電から国に泣きが入る。実際、東電は2013年夏ごろまでには、5兆円の枠に対し、3.8兆円を賠償に使ってしまった。あと、残りは1.2兆円しかない。
支援枠を拡大したくない経産省が折れて「倍増」
詳細は省くが、筆者は政府による東電への支援枠が、5兆円から9兆円に拡大した際の、経産省と財務省の攻防をつぶさに取材した。2013年の秋から冬にかけての出来事だ。経産省側は、できれば5兆円という支援枠を維持したいと考えていて、明らかに枠拡大を嫌がっていた。これに対して財務省側は、
「5兆円では全然足りないはずだ」
「(事故収束費用が)いくらになるか見積もりを示すべきだ」
――と詰め寄った。結局、経産省側は折れ、融資枠は9兆円に拡大した。実際に同年12月の原子力災害対策本部会合で、収束費用は11兆円との経産省などによる試算が示された。
内訳は▽廃炉2兆円 ▽賠償5.4兆円 ▽除染2.5兆円、そして全額国が負担する中間貯蔵施設建設費1.1兆円で、事故収束費用の見積もりは「倍増」した。ある財務官僚は、国からの融資枠9兆円は、賠償と除染を合わせた7.9兆円を想定した融資枠だった、と筆者に説明した。
だが、政府内の交渉プロセスに分け入ってまで取材したものの、収束費用は11兆円でも結局は足らず、3年後の2016年12月には、さらに倍の22兆円に膨らんだ。