財政危機に苦しんだギリシャ経済がV字回復している。その要因となっているのが「観光政策」だ。コロナ禍にもかかわらず、ギリシャには多くの外国人観光客が訪れているのだ。ギリシャ在住ライターの有馬めぐむさんは「感染対策は日本より厳しい。だからこそ外国人観光客もギリシャ国民も安心できる環境となっている」という――。
ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相
写真=EPA/時事通信フォト
2021年10月21日、ベルギーのブリュッセルで開催されたEU首脳会議に出席したギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相。

EU加盟国の中で飛び抜けて経済成長しているギリシャ

ギリシャといえば2010年代に欧州を揺るがせた財政危機の印象が強い国だろう。その後も長い間、景気の低迷から抜け出せないでいた。ところが昨年12月、欧州統計局は、2021年第3四半期のギリシャのGDP成長率(前年同期比)がユーロ圏で最大の13.4%だったと発表した。

ユーロ圏の平均成長率は3.9%なので驚異的な数字と言える。ギリシャのスタイクラス財務相は「過去9カ月間の成長率は9.3%に達し、政府が立てた予測値6.9%を大幅に上回った」と述べた。

この大復活は観光政策によるところが大きい。

新型コロナウイルスによるパンデミックが続く中、どのようにギリシャはインバウンド需要を取り戻したのか。

国民への助成金は約1週間で振り込まれた

近年、政権交代が激しかったギリシャでは、現在、中道右派の新民主主義党(ネア・ディモクラティア)が政権政党だ。ミツォタキス首相(2019年7月~)は父が首相、姉が外相経験者という政治家一家出身である。米ハーバード大、スタンフォード大を卒業後、経済アナリストとしてチェース・マンハッタンに勤務した経歴を持つ。

新型コロナウイルスの感染拡大当初から、ギリシャ政府の初動対応は早かった。

2020年1月15日、まだ欧州ではコロナ感染者が発見されていなかったが、アテネ国際空港では到着者の発熱スクリーニング検査を開始していた。

2月下旬以降、イタリアやスペインで感染が急拡大し、すさまじいオーバーシュートを引き起こしていたが、ギリシャは早めの水際対策で、他の欧州の国々に比べ感染拡大は抑えられていた。それでも3月10日に幼稚園から大学に至るまで全ての教育機関が休校、23日から完全なロックダウンとなった。

当時は毎日のように、ミツォタキス首相のテレビ演説や、保健省と市民保護省から、国内の感染状況や有効な制限措置、国民一人ひとりが守らなければならないことについて、真摯しんしな説明が行われた。同時に各方面への経済的支援策も速やかに決定し、各種助成金や、国民への補助金も申請後1週間前後で振り込まれた。