家族などの同居者がいるのに死亡後すぐに発見されない「同居孤独死」が問題になっている。ノンフィクション作家の菅野久美子さんは「例えば、私が立ち入った現場では、老老介護をしていた女性が同居孤独死していた。自己責任社会では誰もがそのリスクと隣り合わせだ」という――。
寝室に月明かりがさしている
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その数、3年間で552人

年間3万人と言われる孤独死――。しかし、孤独死はもはや、単身の一人暮らしに起きる問題ではない。同居する家族がいるにもかかわらず、長期間遺体が発見されない同居孤独死が深刻化しているのだ。

私は長年孤独死という問題と向き合っているが、昨今よく出くわすようになったのが、この同居孤独死である。

2021年6月13日付の日経新聞によると、「家族などの同居者がいるのに死亡後すぐに発見されない『同居孤独死』が、2017~19年に東京23区と大阪市、神戸市で計552人確認されていたことが分かった。同居者が認知症や寝たきりのため、死亡を周囲に伝えられない例があるほか、介護していた人に先立たれ衰弱死したケースもあった。全国的な調査はなく、実態はより深刻な可能性が高い。」と報じている。

社会から一家で孤立した結果、家族が亡くなっても、遺体を放置してしまう。または、一家で共倒れして、最後に残された家族が孤独死していた――。そんな現象が今日本社会の水面下のいたるところで起きている。同居孤独死が起こる背景には、家族そのものが社会から孤立しているという現状がある。

80代の姉が、60代の弟を長年にわたって介護

ある同居孤独死の事例を紹介したい。

コロナ禍の真っただ中の昨夏。すさまじい日差しと暑さをかいくぐって、私は特殊清掃業者とともに、とある分譲のマンションの一室に突入しようとしていた。マンションのドアの隙間からは、鼻孔をつんざくようなすさまじい臭いが漏れ出てくる。アンモニア臭と死臭が入り交じったような強烈な臭いだ。私はマスクと防護服に身を包み、完全防備で特殊清掃業者と共にその一室に飛び込んだ。

マンションは3LDKで、廊下を進んだところにあるキッチンのマットには、体液とも思われる黒い液体がこびりついていた。

この家で暮らしていたのは、80代と60代の姉弟だ。なんと、80代の高齢の姉が、60代の寝たきりの弟を長年にわたって介護していたという。