「父や母に体を拭いてもらったことを思い出した」
現在、梨奈さんは28歳。
「高校を卒業して10年ほどの間に、大学に行って大学院に進み、就職。父を見送り、結婚して、子供まで生まれて! 自分の人生がこんなに目まぐるしく進んでいくなんて、桜蔭に通っていた頃には想像もつきませんでした」
夫・知久さんも、「とにかく根が明るい人だから、毎日が楽しいですよ」と、笑顔を見せる。
最近、梨奈さんは、忙しい育児の合間を縫って、いわゆる社会的マイノリティーの人々と街づくりについての勉強を始めた。
「出産直後、ずっと家で子育てをしていると、何だか自分が社会から切り離されてしまったかのような感覚があったんです。そんなふうに感じている人も安心して暮らせる居心地のいい街づくりってどんなものだろうと、興味がわいてきました」
子育てをしていると、今まではあまり思い出さなかった、小さな頃の記憶がよみがえることがよくあるという。
「父や母に、体を拭いてもらったり、食事の世話をしてもらったりといった、本当に些細なことなんですが、ものすごく濃密な時間だったな、愛してもらっていたんだなと、今になって気づきます」